シングルフレームグリルを起点としたデザイン手法の完成型アウディ A6 アバントは、写真で見た印象よりもはるかにきれいにまとまった、美しい形のステーションワゴンだった。ご存じの方も多いようにアバント(Avant)とはフランス語で「前に」という意味。アウディがステーションワゴンというボディスタイルを荷役車ではなく、先進的なものだととらえているのだ。A6 アバントもまた、実用性を超えた豊かさや贅沢さを感じさせる造形だ。 近年のアウディのデザインについて、「A4とA6とA8の区別がつかない」とか、「モデルチェンジの前と後での違いがわからない」という声を聞く。それはもっともだと思う一方で、アウディの狙い通りではないかとも感じる。 シングルフレームグリルで機能美を表現し、深いキャラクターラインや複雑な面構成といった“飛び道具”ではなく、本質的なプロポーションの美しさで勝負しようというのが最近のアウディ・デザインのコンセプトだ。理想の形はそんなにいくつもあるわけではないだろうから、理想を追求すると似てくるのはある意味で当然なのだ。 新型A6は、六角形のシングルフレームグリルが横長になり、いかにも安定して速く走りそうなロー&ワイドな造形となっている。また、4輪のフェンダーのデザインが強調され、アウディ独自の4駆システムquattro(クワトロ)が力強く大地を蹴ることをイメージさせる。 とはいえ、ひとつの金属の塊を削り出したかのようなカタマリ感と無駄のない美しさは従来型を継承している。新型A6は、シングルフレームグリルを起点にした現在のデザイン手法のひとつの終着点、完成型ではないかと感じた。それほどまとまりがあって破綻のない造形だ。 上下2段のタッチパネル採用でインテリアを一新エクステリアは熟成を図っている印象を受けたけれど、インテリアははっきりと一新された。簡単に言えば、インフォテインメントや空調などはすべてタッチスクリーンで操作するというコンセプトでデザインされており、スイッチやボタンはほぼ姿を消した。インパネには上下2段のタッチパネルが備わり、上のパネルではインフォテインメント系、下のパネルでは空調系をコントロールする。 言ってみればスマホ時代のデジタルなインテリアで、車両セッティングやスマホとの連携、運転支援機能の操作など、わずか10年前と比べても飛躍的に情報量が増えたクルマをスマートに扱うためのひとつの解だ。最初は大きな変化に驚くけれど、新しいPCやスマホと同じく、半日もさわっていると直感で操作できるようになる。 内外装をチェックしたところで、走り出す前に日本に導入されるアウディA6の仕様を説明しておきたい。ボディスタイルはセダンとアバントの2つで、いずれも「S Line」仕様。搭載されるパワートレーンは共通で、最高出力340psを発生する3L V型6気筒ガソリンターボと7段AT(ツインクラッチ式のSトロニック)との組み合わせとなる。導入当初のパワートレーンはこの1種類のみ。駆動方式はアウディ独自の4駆システム、クワトロとなる。また、この仕様をベースに、導入を記念して装備を充実させたデビューパッケージ仕様も用意されている。 なお、日本仕様には4輪を操舵する「ダイナミックオールホイールステアリング」のほか、アクティブレーンアシストとアダプティブクルーズコントロール、トラフィックジャムアシストを統合した「アダプティブドライブアシスト」、24時間のオペレーターサービスが受けられる「アウディコネクト」といった先進機能が標準装備される。試乗したA6アバントS Lineは本体価格が1041万円で、そこに38万円也のドライビングパッケージを筆頭に、計121万円分のオプションが装着されていた。 滑らかな乗り心地、後輪操舵の作用に好印象路上に出て真っ先に感じるのは、滑るような乗り心地だ。停止状態から加速、巡航状態に至るまで、抵抗というものがほとんど感じられず、すーっと前に出る。 アウディA6は、単に乗り心地がいいという領域を超えている。路面からのショックを上手に緩和して、ボディの揺れもすぐに収まる、というだけでなく、まるでタイヤと路面の間に隙間があるかのように滑らかに前へ進むのだ。先に日本でのデビューを果たしたA8でも同じことを感じたけれど、これほどの滑らかな乗り心地を提供するクルマは、あまり記憶がない。 「この乗り心地、さすがエアサス!」と思ったけれど、「S Line」仕様は通常のコイルスプリングと、可変ダンパーの組み合わせだという。自身の不明を恥じるとともに、金属バネでもこれだけの乗り心地を実現できる技術力に驚いた。この心地よさがあれば、自動運転の世の中になってもアウディらしさは保たれるのではないか。 その自動運転であるけれど、アウディA6にはA8やA7スポーツバックと同様に、機能としてはレベル3の自動運転が可能なセンサー技術が搭載可能となっている。レベル3とは簡単に言うと、ドライバーが運転に復帰できる状態であればハンドルから手を離してスマホをいじることが許されるという段階の自動運転だ。 なぜレベル3が実現しないのかといえば法で認められていないからで、これは日本だけでなく全世界で共通だ。法規、保険制度、そして社会が受容するかどうかなど、自動運転の実現にはもう少しだけ時間がかかりそうだ。 乗り心地がいいだけでなく、全長が5mを超える巨体を操っているとは思えないほどコーナリングもスムーズだ。ターンインの瞬間にホイールベースがギュッと縮まったように感じて、コーナーを脱出してストレートを加速する時にはまたホイールベースが伸びて直進安定性が増す。 まるでホイールベースが可変であるかのような不思議な感覚は後輪操舵によるもので、このコーナリングを味わうとやっぱり自動運転ではなくて自分でコントロールしたいと思うから、人間は勝手なものである。 現時点における自動車の完成型にして最先端V6ターボと7ATを組み合わせたパワートレーンには、さらにベルト駆動式オルタネータースターター(BAS)とリチウムイオンバッテリーが加わり、マイルドハイブリッドとして機能して燃費効率を向上させる。 減速時には高い効率でエネルギーを回生してバッテリーに蓄え、走行中には48Vの電源がシステムに電力を供給。55~160km/hの間ではエンジンを停止するコースティングも可能となる。BASはスムーズかつ素早くエンジンを始動することにも寄与することから、アイドリングストップにも好都合だ。 このパワートレーンは存在感を主張するタイプではないけれど、プレミアムカーの心臓としては上出来で、低回転域から力強いトルクを生み出す。同時に、アクセル操作に対しては俊敏に反応し、エンジンとトランスミッションの好連携で、望んだだけの加速を手に入れることができる。このクルマの走りが魔法の絨毯のように感じる理由は、前述の通り快適な乗り心地に依るところが大きい。同時に、ドライバーの意図を忠実に反映してシームレスに加速するパワートレーンの存在も、浮遊感を感じさせることにひと役買っている。 前述のようにレベル3の自動運転は実現していないけれど、控え目にステアリングホイールを修正しながら前を行く車両に追従する機能はさらに作動にスムーズさと繊細さを増したし、直感で設定できるインターフェイスも優秀だ。自動運転とはいかないけれど、長距離ドライブや高速道路の渋滞でドライバーの負担や疲労を低減してくれる能力が、さらに洗練されたと感じた。 機械としての出来のよさに感心するあまり最後になってしまったけれど、室内は広い。身長180cmの筆者が運転席のシート位置を合わせてから後席に座っても、足を組むことができる。荷室もただ広いだけでなくスクエアな形状なので使い勝手がいい。インテリアの設えから乗り心地、加減速のフィール、そして運転支援機能の作動や実用性まで、現時点における自動車の完成型にして最先端である、というのがファーストインプレッションだ。 スペック【 A6 アバント 55 TFSI クワトロ Sライン 】 |
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