ボクシースタイルからクーペスタイルへ昨年のジュネーブショーでお目見えしたプジョーのフラッグシップサルーン「508」が日本上陸を果たし、これにようやく試乗することができた。フルモデルチェンジとしながらも「509」とならなかったのは、現行世代が末尾のラインナップ数字に「08」を使用しており、新型508もこの世代に属するから。ということで今回試乗したのは、二代目508ということになる。 とはいえ新型508は、先代に対しその内容を大きく変えてきた。もっともわかりやすいのは今年のジュネーブショーで発表された「208」と通ずる最新のプジョーデザインだろう。フルLEDヘッドライトの目尻から連なるデイライトは、まさにトレードマークであるライオンの牙を連想させる。ちなみに3本線のブレーキランプは、ライオンの爪痕をイメージしている。サイドに目を移すとサッシュレスのドアがグラスエリアの広さを強調し、伸びやかなボディラインを引き立たせる。 そして構造的にも大きな変更となったのが、トランクルームへのアクセスをハッチバックとしたことである。これは昨今セダンのトレンドが、ボクシースタイルからクーペスタイルへと変遷していることが大きく影響している。いまや利便性においてはSUVにその座を奪われたセダンだけに、必要十分な実用性を持ちながらも走りの良さや美しさを強調することは命題なのだ。ちなみにそのトランク容量は通常で487L、後席を倒すことで1537Lとなっている。 軽やかな身のこなしが際立つガソリンモデルこのように大きく若返りを果たした新型508は、確かに走りも洗練された。今回試乗したのは1.6リッターの直列4気筒直噴ターボと、2リッターの直列4気筒直噴ディーゼルターボの2種類。前車は「GTライン」、後者は「GT Blue HDi」と銘打たれるが、どちらも18インチタイヤを装着していた。 そしてこの1.6リッターユニットを積む、「GTライン」の走りがすこぶるいい。横に長く広い室内空間。そのコクピットにちょこんと据えられた小径ステリングを切ると、508はロー&ワイドなボディをちょっと信じられないくらい軽やかに旋回させる。ハイマウントされたi-Cockpit(アイコクピット)特有のメーターナセルは一見すると違和感が強い。しかしチルトを使ってハンドルを下げ、テレスコピックでこれを引けば、最新のプジョーポジションができあがる。まるで戦闘機の操縦桿を握るようなスタイルだが、これでいい。ステアリングのギアレシオは適度にクイックであり、シャシーの動きが余計な舵角を必要とさせないから、最小限の操作で運転ができてしまうのだ。 全長×全幅×全高は4750×1860×1420mm。このディメンジョンをして、508はとにかくよく曲がる。これこそがフロントにコンパクトな直列4気筒ユニットを搭載する恩恵だが、しかしそこに危うさがないのは、2800mmの長いホイールベースと、シャシーバランスの良さが理由である。 今回から508は、308やDS7クロスバックにも投入されている新世代の「EMP2」プラットフォームを使っている。その剛性感はドイツ勢ほどではないが、18インチタイヤの入力を受け止めるには十分で、開口部の大きなハッチバックボディに対するねじれ等のネガティブさは感じられない。むしろ際立つのは先代比で70kgも軽くなった身のこなしだ。さらに新型508はトランクフロアやテールゲートには複合素材を使い、フロントフェンダーやフロントサスペンション、リアシート骨格にはアルミ合金を投入している。 シャシーファースターぶりをたっぷりと楽しめるギア比がクイックな小径ステアリングに対し、サスペンションの動きは極めて穏やかである。ノーマルモードでは操作入力を即足回りへ伝えるリニアさを持ちながらも、プジョーらしいしなやかな沈み込みを持って路面をじわりとつかむ。ロールが少ないのはトレッドの広さが影響している。なおかつ18インチを選ぶことからバネ下でタイヤがゴツゴツと主張しないのもいい。 そしてこれをスポーツモードに転じると、さらに走りはダイナミックになる。電動パワステの座りがグッと重くなり、操作はより正確性を増す。高い横G、路面の突起に対してもダンパーが突き上げることなく入力を減衰し、きれいな旋回姿勢を保ってくれる。そう、この世代から508はダンパーが可変タイプとなったのだ。タイヤの微妙なたわみ、転がりの良さ、路面の状況等が手や腰から感じ取れる様は、208や308と同じ、まさにハッチバックの走りだ。リアタイヤが旋回性を犠牲にしない範囲でほどよく接地性を保つあたりには、長年FF車を作ってきたプジョーの貫禄を感じる。これなら後輪操舵を投じてコストを上げる必要もないだろう。 このシャシーに対して1.6リッターの直列4気筒直噴ターボは、絶妙な存在感を示す。180PSのパワーは決して余裕を振りかざすタイプではない。しかしどこからアクセルを踏んでも引き出せる250Nmの最大トルク(発生回転数は1650rpm)によって、最高出力の発生回転数である5500rpmまで気持ち良くエンジンが回ってくれるのだ。環境性能の訴求からレブリミット自体は高くないが、そこまでの過程が楽しく、踏み切れる気持ちよさがある。歴代プジョーのエンジン特性はトルク型だが、このユニットにはGTIとまでは行かずとも回す喜びがあり、結果として508のガソリンモデルはシャシーファースターぶりをたっぷりと楽しめる一台となっていた。 ディーゼルはタイヤ剛性をシャシーが抑え切れていないとなると気になるのは2リッターの直噴ディーゼルターボだが、これはGTラインがあまりフィットしていないように感じられた。長年に渡り磨き上げてきたプジョーのディーゼルユニットは実に素晴らしい。室内にいる限りはアイドリング時も振動やノイズはほとんどなく(試乗車は暖気済みということもあるかもしれないが)、走り出せば400Nmの最大トルクが2000rpmから盛り上がるから、街中ではアクセルを踏み込むようなことがまるでない。 高速道路を走っても、その巡航速度が極めて速い。高回転まで回してもドラマ性は全くないが、3000rpm+αの実用域におけるアクセルレスポンスはスポーティで、通常モードでも欲しい加速が素早く手に入る。8速ATのレスポンスは中庸だが、細かい変速などしなくてもトルクで押し切り速度をみるみる上げてくれる。いや、気づかぬうちに速度が上がり過ぎ、ヘタすると免許が危ない。これが冗談ではないのだ。OE(新車装着)タイヤのミシュラン パイロットスポーツ4Sがもたらす転がり抵抗の少なさ、エンジン回転の低さがもたらす静粛性などによって、気づけばスピードが出ているのである。 この特性は先代508と全く同じだ。しかしシャシー特性まで同じというのは、少し残念だった。具体的にはタイヤの剛性を、シャシーが抑え切れていない感が強いのだ。ただ先代モデルのような、フロントアクスル周りに対する剛性の不足は感じない。ボディはそこそこ以上に堅牢なのだが、タイヤとサスペンションの振幅周波数が微妙にずれていて、真っ直ぐ走っていても常に少しずつ上下に揺さぶられている感じがする。また操舵時にはタイヤがビビッドに反応し過ぎ、鼻先に落ち着きがない。荷重をグッとかけて中高速コーナーを曲がるような場面ではピタッと来るのだが。 ちなみにディーゼルの前後重量配分は、前前軸重が1010kg、後後軸重が620kg(車検証からの抜粋)と、ガソリンエンジンよりもそれぞれ70kg/20kg重たい。これが本来なら乗り味を落ち着かせ、ディーゼル搭載車らしい快適な直進安定性をもたらしそうなものだが、ことGTラインに関してはその限りではなかった。 ドイツ勢とは違う価値観を楽しめるここに簡単に答えは出せないが、感触としてはパイロットスポーツ4Sのトレッド面剛性がGTラインの足回りに対して高過ぎるのだと思う。スポーティクルーザーとして磨き上げるならサスペンション剛性をさらに高める必要があると思うし、ゆったり走るなら同じミシュランでもプライマシーシリーズのようなコンフォートタイヤの方が合うのではないだろうか。もしかしたら車重が重たいにも関わらず、ガソリンエンジンと、足回りが同じなのかもしれない。 そういう意味ではACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)を入れて電動パワステに座りを持たせる方が運転は落ち着く。一定に速度を保てるから、前述した面でも速度超過の心配がないから安心だ。ただACC自体の加減速制御には、やや荒さが目立つ。短い試乗だったので精査しきれないが、これは単眼カメラの認識範囲の狭さと、ディーゼルユニットの瞬発力が噛み合わなかったときに起こるように感じた。 プジョー初となる「レーンポジショニングアシスト」は白線認識型で、左右のどちらかをドライバーが選択すると、これに沿う様にハンドルを修正し直進性を高めてくれる。車線逸脱に対する操舵の強さはちょっとしたロボットじみていて、かなり頑固。この辺にも洗練は必要だと思うが、なぜだかその雑さも含め、フランス車らしくて微笑ましかった。ADAS(先進安全技術)はまだドライバーに全責任が任されるレベル2の範囲にある。この間にシステムやソフトウェアが充実してくれればよいのではないだろうか。 総じて新型プジョー508は、見た目通りの若々しいサルーンへと大きく生まれ変わった。個人的にはガソリン車の乗り味に感服したが、ディーゼルユニットの良さは捨てがたく答えがでない。間違いなく言えるのは輸入車の一大勢力であるドイツ勢にはないスッキリとした乗り味が心地良いことで、これぞ違う価値観を楽しむ選択だと思える。価格は国産セダンよりは若干高めだが、その分スタイリッシュで内容も濃い。セダンの復権を叫ぶというよりは、セダンを楽しみ尽くそうとしている姿勢に、新世代プジョーの勢いを感じた試乗だった。 スペック【 プジョー 508 GTライン 】 |
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