1000万円台後半のラグジュアリースポーツクーペ20年ぶりに復活したBMWのフラッグシップクーペの新型「8シリーズ」を前にして強く思う。このクーペはカッコいい。実物は写真以上に妖艶で、「アストンマーチン DB11」などのスーパースポーツと比べても良いのでは? と思えてくる。 「6シリーズクーペ」の生産が終るとともに登場したので、後継モデルと思いきや、全く違う。BMWにとって新たな顧客層開拓を狙う、超ハイブランド戦略の切り込み隊長だ。価格は試乗した「M850i」で1714万円。フルサイズSUVの「X7」と、マイナーチェンジでグリルが大きくなった「7シリーズ」と併せて、1000万円台後半の超高級車市場に本腰を入れて挑んでいくことになる。 2ドアの4シーターだが、後席は大人の体型ではエマージェンシー用なので2+2パッケージだ。トランクはゴルフバック2個を容易に飲み込む実用性をもつ。要はこのモデル、4855×1900×1345mmのボディを、2人がお洒落に優雅に使う “ラグジュアリースポーツクーペ”である。 内装にも妖艶さが漂う。クリスタル仕上げのシフトレバーなど至る所がキラキラしていて、硬派なBMWがお洒落を覚えてしまった感じ。コクピット感がありつつも、ゆったりとして優雅さもある。超高級路線を開拓するなら、センターモニターやインパネモニターは「3シリーズ」などと差別化してプレミアム感を演出してほしいが、使い勝手や質感は悪くない。 しっとりとフラットが同居する異次元の乗り心地走りの質感も高い。クルマの大きさが気にならない使用環境で、ハードなスポーティドライブをしない人にとって、M850iの乗り味はラグジュアリースポーツカーとして満点のレベルにある。 まず、しっとり感が高い。路面を掴んでいる節度感があるのに、不思議なほど突き上げや路面のザラつき感が抑えられ、全ての入力の角が取れている。衝撃マットの上を走るような感覚だ。 加えて、クルマは揺れているのにそれを感じさせないことにも驚かされる。前後は大きく上下するが、中心は上下せず、目線の移動も少ない。シーソーの中心に座っているような不思議な感覚だ。前後重量配分はもちろんだが着座位置が最適なため、その揺れさえも気にならないのだろう。2人乗りとして作り込めるパッケージならではの乗り味と言えそうだ。 その乗り味が低速から高速まで、苦手な速度域がないかのように続く。見逃せないのは電子制御サスペンションと、カーブで傾きを抑制する電子制御スタビライザーの協調制御による効果だ。曲がり出すと脚を固めて車体の動きを抑える制御が自然で、不思議なほど路面への貼り付き感が出ている。 ちなみに電子制御スタビライザーが旋回中のボディの傾きを抑制している時も、荒れた路面などからの入力の吸収性が落ちずにシットリ感が続くのも、この協調制御の成せる技なのだろう。前後方向のフラット感だけでなく、左右方向へのフラット感まで実現している、なかなかお目にかかれない乗り心地だ。 エンジン&トランスミッションの完成度も高いパワーソースの魅力も忘れるわけにはいかない。 まずエンジンとトランスミッションの相性がいい。最高出力530ps・最大トルク750Nmを発揮するエンジンとは思えないほど、1~3速を使う街中でも変速ショックやギクシャク感がないし、コンフォートモードなら強く加速するときでさえ変速が滑らか。トランスミッション自体の完成度もあるが、エンジンの発生トルクを瞬時にコントロールして変速をアシストする燃焼技術の成せる技だろう。 もちろん力強さと刺激、そして適度な荒々しさも備わっている。アクセルを深く踏んだときの加速力は強烈で、4WDの効果で姿勢変化が抑えられることもあって速度感が麻痺しそうだが、一般道の交通環境でこの能力をフルに発揮できる場所はないレベルだ。 また、ノーマル時であっても、音量こそ抑えられているが体に響くような野太いV型サウンドで、買い物グルマ的な使い方だとうるさいと感じるほど。しかもアクセルを深く踏めば、ノーマルモードでさえ3700rpmあたりからバイパスバルブが開いて刺激的な音を奏でる。スポーツモードではバルブが積極的に開放されるので、いつでもどこでも刺激的なサウンドが楽しめる。 アクセル操作に対するレスポンスや、コントロール性もいい。ドライブセレクトをスポーツプラスにして、トランスミッションをマニュアルにすると、滑らか路面でないと運転し辛く感じるほどアクセルと駆動が直結感を増す。ふだんは全てを最適に調整してくれるアダプティブモードで走るほうが心地いいだろう。 ピュアスポーツの世界を期待してはいけない最後にラグジュアリースポーツと表現した理由も書いておこう。 M850iの本質は、ラグジュアリーな内外装のスポーツカーではなく、ラグジュアリーにスポーティな走りを楽しむモデルということ。言葉遊びのようだが、ピュアスポーツ性は薄い。ここを勘違いすると買ってから後悔することになる。 意のままに動くとか、ダイレクト感があるとか、クルマが小さく感じるようなコントロール性といったスポーツ性なら、M850iを上回るクルマはある。それなりの価格帯の2シータースポーツカーのオーナーがM850iに乗ったら、刺激が足りないとか、普通だと言われそうだ。そこはM850iではなく、いずれ登場するはずの「M8」の世界なのだろう。 実際、ボディの四隅にまで意識が行き届くような車両感覚の掴みやすさは薄いし、狙った走行ラインにバシッとクルマを乗せるには操作に気を使う。タイヤを追い込んで使うようなハードなスポーティドライブでは重さが表面化して、アクティブスタビライザーのロール制御に違和感を覚える時もある。 また、特に小さく曲がり込むカーブでは、気持ち良く曲がる感覚は少ない。その状況を一瞬で吹き飛ばす加速力と排気音があるので総合的には走りを楽しめるが、M850iの真骨頂は“能力の8割程度にとどめた”一歩引いたスポーティドライブの世界。そのときに感じる爽快感や優雅さを超えるライバルはそうそうないということだ。 ラグジュアリースポーツなので、先日登場した3シリーズ同様に、「熱い」「寒い」などの口語認識を可能にする人工知能を取り入れた最新ボイスコントロールや、35km/h以下で走行中に直前50mの走行軌跡を記憶して、バックする時に軌跡通りに戻ってくれるといった、最新の支援機能も充実している。まさに、ファーストカーとして乗れるラグジュアリースポーツクーペの優等生としてM850iは登場した。 スペック【 M850i xDrive クーペ 】 |
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