今回は日産主導で開発。理由はプロパイロット日産「デイズ」は三菱「ekワゴン/ekX(クロス)」と基本メカニズムを共有する双子車だ。顔周りのデザインこそ違っているが、エンジンやシャシーは同じものを使っているし、サスペンションの味付けも共通。SOSコールがekには設定されない、ルーフレールがデイズには付かないなど、装備の細かな違いはあるけれど、どっちがいいか迷ったら、純粋にデザインの好みで選べばいいだろう。 手がけたのは日産と三菱が2011年に立ち上げた「NMKV(Nissan Mitsubishi Kei Vehicle)」という合弁会社。NMKVには両社から要員が送られ、協力して企画、開発を行う。もっとも、2016年には日産が三菱の株式の34%を取得し筆頭株主になったため、ビジネス面でのNMKVの存在意義は薄れてきたように思える。が、少なくとも開発現場では「日産出身者vs三菱出身者」という構図ではなく「NMKVの仲間」という雰囲気づくりに役立っているという。 先代モデルは、当時の日産に軽自動車開発のノウハウがなかったこともあり三菱側が主導したが、今回は立場が逆転して日産主導の開発となった。エンジニアによると、日産主導にしたいちばんの理由は「プロパイロット」を搭載したかったからだという。日産車ですでにお馴染みのプロパイロットは、先行車との車間を一定に保つACC(アダプティブクルーズコントロール)と、車線内を維持するステアリングアシストを組み合わせたもの。N-BOXの「ホンダセンシング」にも同様の機能が備わっているが、渋滞時に完全停止した状態からの再スタートに対応しているのがプロパイロットのアドバンテージだ。なお、ekワゴン/ekXでは呼び方が変わり「マイパイロット」となる。横滑り防止装置は各社がESPとかESCとかDSCなどバラバラの名前を付けたことでユーザーの認知が遅れた。機能が同じなら呼び名も同じにするべきだったと思う。 話を元に戻そう。プロパイロットはアクセル、ブレーキ、ステアリングなどを統合制御するため、制御用コンピュータやカメラ、センサー、それらを繋ぐ車内通信システムが日産車に最適化されている。それを三菱のシステムに単純にアドオンするのは難しい。であるなら、すべて日産の技術でつくるのが合理的だという判断があったようだ。もちろん、ペダル踏み間違い防止機能や歩行者対応の自動ブレーキといった先進安全装備にも抜かりはない。それにしても軽自動車にプロパイロットが付くとは時代も変わったものだ。その背景にあるのは軽自動車の使われ方の変化。日産の調査によると、セカンドカーではなく、一家に一台のファーストカーとして軽自動車を選ぶ人が増えているのだという。 異例とも言える豊富なボディカラーと高い品質感軽自動車といえば、従来は近距離用のゲタとして買われることが多かった。しかし最近はファーストカーとして選ぶ人が増えている。2013年には32%だったファーストカー比率が、2017年には43%まで増加し、それに伴い、使用用途も「趣味、レジャー」が「通勤、通学」を初めて上回った。当然、高速道路を使った長距離移動も多くなるわけで、日産がプロパイロットの採用にこだわった理由はそこにある。 もう一点、最近の軽自動車選びで大きく変わったのがボディカラーやデザインを重視する人が増えたこと。2008年の調査では車体色は4位、デザインは8位だったが、2018年の調査では車体色は1位に、デザインは3位に上がってきた。そう、いまや軽自動車は「安いから仕方なく乗るクルマ」ではなく「魅力をしっかり見極めて選ぶクルマ」になっているということだ。 そんなユーザーニーズに応えるべく、デイズには13種類の単色と、4種類の2トーンの合計17色が用意されている。ekを合わせればさらに色数は増える。しかも驚いたのが2トーンの配色。4種類すべてルーフの色が違うのだ。白、黒以外のルーフカラーを設定した軽自動車はデイズが初。プレミアムカーなら話はわかるが、コストの制約が厳しい軽自動車でこれほどの色数を揃えるのは異例中の異例だ。生産を担当するのは三菱の水島工場だが、塗装工程の複雑さは想像を絶する。こんなことができてしまう現場力こそ日本のモノ作りの強みである。 ボディカラーとともに日産のこだわりを伝えてくるのが「品質感」だ。ボディサイドを走るクッキリしたプレスライン、シャープな表情のヘッドライト、タイヤとフェンダーのすき間の小ささ、軽自動車としては珍しいセンターマウントのナンバープレートなど、見栄え品質は軽自動車としてはトップクラス。大型Vモーショングリルを採用したハイウェイスターはそこに押し出し感も加わるが、派手すぎないのがいい。初期受注では5割以上がハイウェイスターだというが、それも納得の完成度の高いデザインだと思う。 軽自動車離れしたインテリアに驚いた外観以上に驚いたのがインテリアで、これはもう「軽自動車離れした」という表現が相応しい。中央に4.2インチTFT液晶をレイアウトしたメーターパネルは、高い視認性に加え、透明のメーターリングをあしらうなどデザインや作り込みも上々。平板になりがちなダッシュボードやドアトリムにも、巧みなデザインによって立体感を与えている。ステアリングホイールはセレナと基本的に同じものだが、セレナが下部を切り取ったDシェイプであるのに対し、デイズはオーソドクスな丸形。市販のハンドルカバーを装着している人が多いという調査データから丸形を採用したとのことだが、デザインや回しやすさの面でも丸形は好ましい。セレナにもこのステアリングを付けたらいいのに、と思ったほどだ。 ハイウェイスターには、オプションで「プレミアムコンビネーションインテリア」が用意される。これをチョイスすると、専用シート地に加え、ダッシュボードにソフトタッチの素材が張られ、ステッチもフェイクからリアルになるなど、軽自動車離れ感がますます高まる。3万2400円を支払う価値は大いにありだ。 見栄えだけでなく、機能性にも光るものがある。運転席周りの小物入れの少なさが指摘されていた先代の反省から、目指したのはクラストップの収納性。事実、インパネやドアなど、ありとあらゆるところに収納がある。目立たないが、シートスライドレバーの幅が従来の14cmから24cmへと拡大されたのも、とくに女性にとっては嬉しい改善点だ。従来は両足の間から操作するという少々行儀の悪い動作を要求されたが、新型は足を開かず横から操作できる。 室内スペースは広い。ハイトワゴンタイプではクラストップだ。とくに後席のスライドをリアモストにセットした際の広さはリムジン並み。完全フラットな床面も気持ちいいし、サイドウィンドウの内側への倒れ込みが小さいから、頭回りも広々している。荷物が多いときは後席をワンタッチでスライドさせることも可能で、さらに床下には54Lのサブトランクを備える。N-BOXやスペーシアといったスーパーハイト系の人気が高まっているが、スライドドアが欲しいとか、自転車を積むとか、そういった特別なこだわりがなければ、これでなんの不足があるの? というほどの広さだ。 ターボとプロパイロットの組み合わせは軽の常識を覆す「いま思うと割り切りすぎました」というある開発者の言葉通り、先代デイズは静粛性も、乗り心地も、動力性能も誉められたものではなかった。軽自動車なのだからこんなものでいいだろう、という割り切りをしたものの、他社が想像以上に性能を上げてきたため、相対的に競争力が弱くなってしまった。そんな反省を踏まえ、走行性能をグンと高めてきたのも新型デイズのトピックだ。新設計のエンジンは、自然吸気版のトルクを全域でアップ。ターボ版もより低い回転域からフラットなトルクを発揮する特性になった。 組み合わせるCVTには4800rpm以上の領域でATのような変速をするステップ制御を導入。常用域ではCVTのメリットであるスムースさを、フル加速時にはATのようなメリハリのある加速フィールを味わえる。静粛性も高い。エンジン音もさることながら、印象的だったのがタイヤノイズや車外騒音の抑え込み。ドアを開けてみてなるほどと思った。さすがに全周ではないものの、上半分がダブルシール構造になっている。このあたりにも、軽自動車らしからぬ贅沢ぶりが表れている。 試乗したハイウェイスターの自然吸気とターボには「スマートシンプルハイブリッド」と呼ばれる簡易型ハイブリッドが搭載されている。モーター出力はわずか2kWだからフルハイブリッドのようなモーターアシスト感には乏しく、燃費改善効果もわずかだが、アイドルストップからのスムースな再始動は大きな魅力だ。 動力性能は、街中メインなら自然吸気でも必要にして十分だ。ただしロングドライブに行く機会が多いなら、オススメはより余裕のあるターボ。強力なトルクとプロパイロットの組み合わせは、軽自動車の常識を覆す快適なロングドライブを約束してくれる。 足回りのセッティングは自然吸気もターボも基本的に共通だが、タイヤサイズは自然吸気が14インチでターボが15インチ。荒れた路面での乗り心地は意外にも自然吸気のほうがやや固めで、ターボのほうがしっとりしていた。両車とも市街地での身のこなしは適度にキビキビしているし、高速走行時の安定性にも不満は感じなかった。 新型デイズは日産が初めて開発した軽自動車だが、その性能や見栄え品質には従来の軽自動車の枠を超えるものがあった。とりわけインテリアの質感はマーチはもちろん、ノートさえ凌ぐレベルに達している。経済性で選ぶクルマからデザインや質感で選ぶクルマに。新型デイズが表現しているのは、エコでお洒落なライフスタイルカーという新時代の軽自動車像だ。 スペック例【 ハイウェイスターGターボ プロパイロットエディション 】 【 ハイウェイスターX プロパイロットエディション 】 |
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