去年、今年前半とミニバン累計販売台数ナンバー1の人気者「新時代の国民車」を探す実地調査企画の第21回。今回の調査対象は2018年のミニバン販売台数No.1であり、直近の2019年1~6月累計でもミニバン第1位をひた走っている日産セレナの、その人気を牽引している「セレナe-POWER」である。 電動パワートレイン「e-POWER」に関する詳しい説明はもはや不要だろう。1.2Lガソリンエンジンは発電に徹し、その電気を使って働く電気モーターがタイヤを駆動させるという、日産が言うところの「電気自動車の新しいカタチ」であり、正確に言うなら「シリーズハイブリッド」だ。 現行型日産セレナにはe-POWERのほかに2L直4ガソリン+マイルドハイブリッドの「S-HYBRID」もあるが、今回の試乗車は、冒頭で申し上げたとおりセレナの現在の人気を牽引している「e-POWER」。具体的には、最上級グレードに相当する「e-POWER ハイウェイスター V」である。 後述する問題点はあるわけだが、とりあえずの結論としては、日産セレナe-POWER ハイウェイスター Vは素晴らしい「家族向けの車」であると同時に、まずまず良好な「ドライバーズカー」でもあった。 居住性や使い勝手に加え、遮音対策により快適性が向上まずは「家族向けの車」としてのセレナe-POWERについて述べる。 居住性や積載性の良さ、あるいはさまざまな装備類の使い勝手の良さについては、巷間言われているとおりというか、もっと言ってしまえば「カタログにうたわれているそのまんま」である。 日産セレナは5ナンバーサイズミニバン(編集部注:セレナは5ナンバーサイズがベースですが、ハイウェイスターのグレードはエアロパーツ装着で3ナンバーとなります)のトップランナーのひとつであり、そんなトップランナー(というかドル箱)の現行世代だけあって、あちこちの使い勝手が悪いはずがない。 運転席からの視界は良好であり、5ナンバーサイズにもかかわらず2列目シートはなかなか快適で、3列目も決して「オマケ」ではない広さがある。そしてシートアレンジも多様かつ楽勝であり、乗り降りや車内での移動も非常にやりやすい。 5ナンバーサイズミニバンの場合は、走りうんぬんよりもこういったところ(居住性やら使い勝手やら)がさしあたっての最重要ポイントとなるため、このあたりの優秀さはメーカーからしてみれば「当然」といったところなのだろう。 そのうえで、e-pOWERは大変に「静か」である。 窓を開けていると実はエンジン音がけっこううるさかったりもするのだが、コンバーターが発する高周波ノイズを抑え込む4層構造の専用フロアカーペットを採用しているほか、遮音フィルム入りのフロントガラスも採用されているため、窓を閉めてさえいればセレナe-POWERの車内は走行中であってもかなり静かだ。車内で楽しく談笑するにも、あるいはドライバー以外の者がぐっすり眠るにも、この静寂っぷりは大きく貢献するだろう。高速走行中の風切り音も、かなり上手に抑えられているとの印象を受けた。 運転していたくなる上質感でゆっくり走っても退屈しないさらに「セーフティパックB」というメーカーオプションを付けることで例の「プロパイロット」が装着されるため、パパあるいはママが高速道路を巡航したり渋滞にハマったりする際の疲労も、ACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)やレーンキープアシスト機能が付かない競合ミニバンと比べて圧倒的に低いことが予想される。 当企画の第19回でトヨタ ヴォクシーを研究した際にも言及したが、スポーツカーならさておき、ドライビングプレジャーうんぬんはさほど重視されないミニバンを買う場合こそ、ACCの有無を重視するべきだろう。なにせ、一度使えば誰でもすぐにわかることだが、ACCがあれば長距離を運転する際の疲労度が体感的には3分の1か5分の1ぐらいまで低減されるからだ。 だが日産セレナe-POWERは、ミニバンではさほど重視されていない「ドライビングプレジャー」についてもなかなかのモノである。 バッテリーを搭載したことで低重心化したからであろうか、セレナe-POWER の動きにはひたすらの「安定感」があり、それは「動きの上質感」にも容易に転化する。そして4輪(特に前輪)の接地感も常にしっかりと両の手に伝わってくるため、この車のハンドルを握る者は、たとえ後部座席に家族を乗せてゆっくりめにそのへんを走るようなシーンであっても「退屈」を感じないのだ。 このあたりがダメな5ナンバーサイズミニバンを運転していると、車好き(運転好き)としては軽く死にたくなるものだが、セレナe-POWERではそのようなことはいっさいなかった。むしろ「長生きしたい!」とさえ思った筆者である。 ひとりで運転を楽しむこともできるe-POWERの二面性そして後部座席に座る家族あるいは友人が誰もいない状況であれば、この車は「まずまずの痛快マシン」に変身させることもできる。 さすがにスポーツカーのような走りはできないし、するべきでもない。だが前述した重心の低さに加えて、電気モーターならではの「アクセルペダルを踏んだ瞬間から力強いトルクが立ち上がる」という特性があるゆえに、そしておそらく足回りなどのセッティングも優秀であるゆえに、セレナe-POWERは端的に言って「運転が楽しい」のだ。 もちろん非常識な速度でかっ飛ばすわけではないが、ある程度鋭く加速し、まずまずのハイスピードで安定した巡航を行い、そしてカーブなどを小気味よく駆け抜けていきたいというのは、自動車および運転という行為を好む者の多くが希求するところであろう(※ただし同乗者がいない場合限定)。 セレナe-POWERは、そんな男の(あるいは女の)情念にもしっかり応えてくれる、二面性を備えた5ナンバーサイズミニバンなのだ。それゆえ、良き家長であると同時にひとりの男あるいは女でもありたいと考える自動車愛好的国民には、強くおすすめしたいと考える次第だ。 オプション込みで400万円オーバーを許容できるかどうかただ、その際に少々のネックとなるのが「価格」だろう。 今回の試乗車である「セレナe-POWER ハイウェイスター V(2WD)」の車両本体価格は340万4160円。まぁ、それはいい。正直申し上げると「300万円を切ってほしい」という願いもあるわけだが、今どきそれはなかなか難しいだろう。そして走りのクオリティから考えれば納得のプライスではある。 だがそこに加わるオプション装備代がけっこうエグいのだ。 具体的には、今回の試乗車両のオプション装備を含む総額は430万6812円。……税金などの諸費用を含む本当の総額は450万円といったところだろうか? まぁおそらく店頭での値引きもあるのだろうから、仮に「乗り出し400万円ぐらい」ということにしておこう。 400万円……。 趣味的な何かを買うならさておき、「実用物」を買うにあたってはズシリとくる金額である。家長的に。 そして大枚400万円も支払うとなると、それまでは気にならなかったパワーウインドウ操作スイッチあたりの樹脂のプアな質感が、ちょっとだけ許せなくなってくる。さらにはプロパイロット作動中の車間距離ももう少しなんとかならないものか? と思えてくる(最小車間距離に設定しても、けっこうガバガバに広いのだ)。 だがしかし「家族で過ごせるナイスな移動空間」でありつつ、「なかなか痛快で上質な走りも楽しめるマシン」でもあるということで、この総額に納得できる人もいらっしゃろう。 それゆえ、もしもご試乗および値引き交渉のうえ納得できたならば、日産セレナe-POWER ハイウェイスター Vは「買い」である。 個人的にはハイウェイスターのエクステリアにはまったく興味がないため、もしも買うなら30万円ほどお安い「セレナ e-POWER XV」を選ぶと思う。だがいずれにせよセレナe-POWERは、家族と運転の双方を愛する多くの日本国民に乗っていただきたい、なかなか素晴らしい実用車であった。 全日本国民車評議会(通称:国民車会議)議長としての勝手な評価まとめは以下のとおりである。 【 日産セレナe-POWER ハイウェイスター V(2WD)=340万4160円 】 【 日産 セレナのその他の情報 】 国民車とは今、「新時代の国民車」が待たれている。いや、それを待っているのはわたしだけという可能性もあるわけだが、筆者が考える新時代の国民車とは以下のようなクルマだ。 「安価だが高機能かつ低燃費で、それでいておしゃれ感もある、程よいサイズの実用車」 100万円台でまるっと買えるのが望ましく、それが難しい場合でもせいぜい200万円台前半ぐらいまで。自動車オタクが求めがちなマニアックな諸性能はどうでもよく、どんな状況でも普通か普通以上ぐらいに気持ちよく運転でき、燃費が良くて維持費も安く、人と荷物をある程度積載できて、邪魔くさくないサイズで、それでいて大のオトナが乗るにふさわしい質感とデザインも備えているクルマ。 ……そんなある意味ぜいたくな一台を探し出すため、筆者はこのたび「一般社団法人 全日本国民車評議会」を(脳内で)設立し、実地調査に乗り出すことにした。 【国民車調査バックナンバー】 ■第2回 スズキ ジムニー、ジムニーシエラ ■第3回 日産 オールラインナップ ■第4回 スズキ スイフトスポーツ ■第5回 トヨタ カローラ スポーツ ■第6回 ホンダ シャトル ■第7回 ホンダ N-BOX ■第8回 スズキ ソリオ ■第9回 トヨタ シエンタ ■第10回 スバル XV ■第11回 ダイハツ ブーン ■第12回 スズキ クロスビー ■第13回 スバル インプレッサスポーツ ■第14回 マツダ デミオ ■2018年「国民車会議」振り返り ■第15回 トヨタ プリウス ■第16回 ホンダ フリード ■第17回 スズキ スペーシア ギア ■第18回 スズキ ワゴンR ■第19回 トヨタ ヴォクシー ■第20回 日産 デイズ |
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