R35型GT-Rの集大成的なモデルになっている今回ドイツで触れた2020年モデルの「GT-R ニスモ」には、驚きの速さに加えて、どことなく哀愁を感じてしまった。と言うのも、進化の伸びしろの大きさや完成度に驚く一方で、騒音や排ガス、燃費などの環境規制が今後さらに厳しくなることを思うと、これがR35として2007年から歩んできた第3期GT-Rストーリーの集大成です! という日産のメッセージとも受け取れたからだ。 もちろん次世代アイテムの電気を使って、将来GT-Rがさらなる進化を果たす可能性も残されているが、純粋な内燃機関で速さを追い求めるのは、これが最終形と思える内容がそこにはあった。ひとつの時代の幕引きに相応しい集大成モデル。やれることを全て注ぎ込んだ、言い訳なしの実力をレポートしよう。 2020年モデルは路面への抜群の張り付き感、連続するカーブを俊敏に走り抜けるフットワーク、ド級の速さ、圧倒的な安定感、それらを日常使いできる快適性を同居させているのだが、 “実現させている深さ”が普通じゃない。 GT-R ニスモは、GT-Rの開発総責任者が水野氏から田村氏に変わった2014年モデルで誕生した。GT-Rが世界のハイパフォーマンスカーのトップランナーと戦い続けるには、グランドツアラー(GT)の世界を追い求める基準車と、レーシング(R)の世界を求める専用車を分ける必要があったということだ。 2014年モデルは構造用接着剤の採用や、エンジンパワーなどの各性能や乗り味が差別化されていたが、2017年モデルはAピラー周りやフロントガラスの接着剤変更、ダンパーの減衰力調整なども加わり、乗り比べると洗練度が明確に違っていた。基本的には3年ごとに大きな変更が加えられ、2018年モデルはタイヤの仕様が変更されていた。 その2018年モデルでさえ、十分過ぎる速さをもった紛れもない日本最速モデルだ。それがサーキットで乗り比べると鈍重に感じてしまうほど2020年モデルは研ぎ澄まされている。 2018年モデルとは全てが違う、全く別モノの完成度まずは市街地の乗り心地がいい。日本で試乗した2020年モデルの基準車も乗り心地が洗練されていたが、それと同様の印象だ。大き目の凸凹では相変わらず鋭い入力が入るが、2018年モデルのように跳ねる感じはなく、助手席も日常のドライブに耐えられるレベルになったといえる。ハンドルも軽くなっている。 市街地ではその程度の差しか感じ取れないが、アウトバーンで追い越し車線を走ると進化の具合が鮮明になってくる。まず、ターボの立ち上がりが良くなって、クルマが軽くなった。そして速度が上がるに従い驚きは強まる。路面追従性が良すぎるのだ。 こんなにも鼻歌交じりで300km/hを出せる安定性は体験したことがない。超高速では微妙な起伏によりクルマが跳ね上げられてダウンフォースレベルが変わる。フワッと飛ぶような感覚と戦いながらアクセルを踏み続けるというのが、アウトバーン300km/hの世界だったはずなのに、その手の緊張感が一切ない。 背景には強烈なダウンフォース効果が挙げられるが、それ以前に、足回りの動き、恐らく軽量化が影響しているのだろう。グリップを生み出す足回りの動きは今までとレベルが違う。 そのアウトバーンも序章に過ぎず、サーキットの本気ドライブではさらなる驚きが待っていた。 2020年モデルだけでは「はえー」「スゲー」で終わってしまうだろうと、日産はGT-R ニスモの2018年モデルを比較車として用意した。結論から言うと2018年モデルオーナーには申し訳ないが、全てが違う、全くの別物。それも想像の倍は差があると断言できる別物感がある。 まずはブレーキのストッピングパワーが大きく違う。ブレーキを踏んだときにフロントだけでなくリアサスまで沈み込んでいるのではと思えるほどクルマが路面に張り付く感覚がある。そこからブレーキをスムーズに離せばジワッと路面から車体がブレーキ操作に連動して離れてくる素直さがあり、コントロールしやすい。2018年モデルはブレーキの最後の繊細なコントロール域で、減速力が抜けすぎてフロント荷重も抜けてしまうシーンがあったが、2020年モデルではブレーキタッチがまったく変化しない。コーナー進入では、まさに気持ち良く意のままに操れる世界がある。 旋回性能も加速性能も2018モデルを引き離しているそして旋回力が凄まじい。久々に首がキツいと思うほどの旋回力で、2018年モデルでタイヤを新品にした時に数周だけ味わえる超美味しいグリップレベルを、普通に毎周堪能できる。 さらなる驚きは、切り返しの軽やかさ。1700kgオーバーの重量級であることに変わりはないが、2018年モデルと比べ100kg近く軽いクルマのごとくユサリともせずに切り返せる。切り返しのコーナーリング速度も高い。また、2018年モデルは旋回Gによりシートが若干動く感覚があったが、2020年モデルはシートがレカロにより新設計されている。 個人的に快感を覚えたのは加速だ。若干路面が荒れた場所でのフル加速や、旋回しながらのフル加速で、アウトバーンで体感した通り、2020年モデルは路面にめり込むように強烈に加速する。アクセル操作へのレスポンス遅れも皆無だ。 誤解しないでほしいのは、2018年モデルの加速特性もハイパフォーマンスカーのトップレベルにあることだ。車体をねじらせ、跳ねたり暴れたりしながらも、瞬間的にタイヤを路面に押しつけ飛ぶようにクルマを前に押し出すのは、リアエンジンのポルシェに匹敵するレベル。それをフロントエンジンで実現しているのは、FRをベースにここ一番でフロントタイヤが強力にクルマを前に引っ張るアテーサー4WDの凄さだろう。何にせよ、2020年モデルのトラクションは異様なレベルにあり、しかも加速中の旋回など、複合操作への柔軟性もある。 ライバルにコスパで勝るが12歳という古さも感じる最後にこれだけの性能を達成した技術背景を見ていこう。 2020年モデルの基軸は軽量化だ。2018年モデルもトランクリッドや空力アイテムはカーボンだが、ボンネットで2kg、ルーフで4kg、フロントフェンダーで4.5kgのカーボン化による軽量化を果たし、その他も合わせ合計13.3kgのバネ上重量を削った。さらに新ホイールでバネ下重量も合計16.4kg削っている。 軽量化でダンパーに余裕ができて接地性が高まり、旋回速度が上がり、旋回速度に耐えられる剛性のタイヤも新設計された。カーボンセラミックブレーキも新設計で、キャリパー容量が大きくなり、ローターは大径化されただけでなく冷間時の発熱を促進できる新素材を採用。高温度域側の性能が追求できるようになり、減速ピークGも高まるといった好循環が生まれているのだ。 「GT-R ニスモ GT3」で鍛え上げたターボタービンは、効率を落とさずブレード枚数を11枚から10枚に減らし、14.5%の軽量化と24%の慣性モーメントを削減。試乗でも頻繁に感じたレスポンス向上に繋がっているという。 開発責任者の田村氏は「“使い切れる600ps”が大事。トータルバランスや感性を鍛え上げるのがGT-Rの名にふさわしい進化」と言う。これだけスペック表に書けない要素にお金を掛けてきたモデルが、今まで国産車にあっただろうかとも思った。 最後に、GT-R専用のシャシーは12年経った今も世界の最新ハイパフォーマンスモデルと十分過ぎるレベルで戦えている。ニスモ2020年モデルは2000万円台中盤(※2420万円、10%の消費税込み、※編集調べ)という非現実的な価格になると予想されるが、ライバル勢と比べても、まだ若干のコストパフォーマンスの良さは魅力として挙げられるだろう。一方で、トランスミッションが未だに6速で高速巡航時に低回転ドライブができない、高度運転支援システムが付かないなど、12年という年齢を意識せざるを得ない状況にもなっている。 ハイパフォーマンス専用量産モデルの存続が難しい時代になるとも言われているが、日産には是非、GT-Rの進化の継続をお願いしたい。 スペック【 GT-R ニスモ 2020年モデル 】 |
GMT+9, 2025-3-16 04:20 , Processed in 0.055610 second(s), 18 queries .
Powered by Discuz! X3.5
© 2001-2025 BiteMe.jp .