FF化の最大の理由は室内スペース確保「FFでも、やっぱりトップクラスの気持ち良い走りを実現してきた」 8年ぶりのフルモデルチェンジで第3世代となったBMW新型1シリーズに乗って感じた。その最大の特徴は、これまでのFRレイアウトに別れを告げ、FFレイアウトを採用したこと。走りにこだわるBMWだからこそ採用し続けてきたFRレイアウトをやめたことは多くのファンを驚かせただろうし、落胆した人もいるだろう。しかし実際に乗ると、やはり昔から走りをデザインするのが極めて得意なBMWらしいFFモデルに仕上がっていたのだった。 もっともBMWは2014年に発売した2シリーズ アクティブツアラーで、BMW初のFFモデルをラインナップしている。これはグループのMINIブランドで用いるFFのアーキテクチャを用いたものだ。そして今回の新型1シリーズも基本的に同じで、ボディサイズは全長4319×全幅1799×全高1434mm、ホイールベースは2シリーズ アクティブツアラーやミニ クラブマンなどと同じ2670mmだ。 デザインは巨大なキドニーグリルにはじまる新世代のもので、3シリーズや8シリーズと同じテイスト。面白いのはFFを採用したのにフォルムは以前よりむしろスポーティになったこと。外装はエッジを多用したパワフルな印象で、最近のトレンドといえるラインを削いでいく方向とは真逆の濃厚な感覚だ。 一方でインテリアは他のモデルと共通するテイストで、ともに10.25インチのフル液晶メーターパネルとタッチスクリーン式コントロールディスプレイが組み合わされた先進性を感じるもの。そこにドライバーオリエンテッドなデザインを融合して、スポーティなBMWらしい造形とした。 新型1シリーズがFFレイアウトを採用した最大の理由は、室内スペースの確保、特に後席の拡大にある。走りよりも使い勝手が優先された。実際に後席膝回りのスペースが33mm、ヘッドルームが19mm、後席肘周りのスペースが19mm拡大された。ラゲッジ容量は先代モデルよりも20L増えて380Lになった。こうして他のライバルと同様に使い勝手を高めたわけだが、同時にFRゆえの高いコストとの決別も理由としてあるのだろう。 日本に導入予定のM135i xDriveと118dに試乗FF化で実現した走りはどうなったのか? を語る前にメカニズムの解説を少ししておきたい。シャシーはフロントがマクファーソンストラット、リアがマルチリンクという組み合わせ。これはミニ・クロスオーバーと同形式だ。最近の欧州Cセグメントでは、例えばマツダ3はリアサスにトーションビームを敢えて使い、ライバルといえるメルセデス・ベンツもAクラスもグレードによってトーションビームとマルチリンクを使い分ける。そんな中で新型1シリーズはコストもかかるだろうマルチリンクを用いた。 エンジンラインナップは本国では様々に用意されるが、今回試乗したのはトップモデルであるM135i xDriveと118dの2種類で、日本にはこの他に118iというガソリンモデルも導入される予定だ。M135i xDriveは2.0Lの直列4気筒ターボで、最高出力306ps、最大トルクは450Nmを発生する4気筒で最もパワフルなユニット。0-100km/h加速タイムは4.8秒(Mパフォーマンスパッケージは4.7秒)、最高速は250km/h(リミッター作動)で、燃費は欧州複合モードで14.0~14.7km/Lとなる。そして8速ATを介してxDriveと呼ばれるFFベースの4輪駆動を採用する。 一方で118dは2.0Lの4気筒ターボディーゼルで、ディーゼルパティキュレートフィルターとNOx吸着触媒コンバーター、尿素SCRシステムを備える。排ガス基準はユーロ6d TEMPをクリアしている。最高出力は150psで最大トルクは350Nm、0-100km/h加速タイムは8.4秒、最高速は216km/hを実現。燃費は欧州複合モードで22~24km/Lとなる。こちらは8速ATを介して、前輪を駆動するFFレイアウトだ。 実際に走ると、M135i xDriveはスポーツモデルならではの気持ち良さが存分に味わえるエンジンになっていた。特に450Nmの最大トルクで、1525kgのボディを軽々と加速させる圧倒的な力が頼もしい。そして最近の直噴ターボとしてはかなり上まで回り、気持ちよいサウンドを響かせながら6000回転を超える高回転域も味わえる。 118dも2.0Lディーゼルなのでゆとりある走りが味わえる。ライバルのメルセデスA200dは同じ2.0Lで最高出力150ps、最大トルク320Nmなので、118dはさらに30Nmもトルクが太い。A200dもトルクの太さで相当にゆとりある走りだが、118dはその先を行く余裕を感じさせる。日常の使用ではほぼ2000回転までで全てが事足りるし、街中では1500回転を下回るほど。このため静かだし燃費向上にも貢献する。 一方で回せばBMWのディーゼルらしく、気持ちよく高回転域まで回るのも特徴だ。こんな具合で、ガソリンでもディーゼルでも気持ち良いエンジンを擁し、FF化されても冒頭に記した通りのこのセグメントでトップクラスといえる、そしてBMWを感じさせる走りを味わわせるシャシーがある。 ARBシステムの採用などで他のFF車とは異なる走りを実現新型1シリーズでは、FFを採用してもかつてのFRモデルに負けない優れたハンドリングを実現するために、ARBテクノロジーと呼ばれる制御を採用したのが特徴。ARBは電気自動車i3で用いた技術で、FFで起こりがちな走行時のホイールスリップを飛躍的に速く制御して、トラクションを増大できる仕組みだ。 従来のモデルではホイールスリップを検知後、信号をDSC(ダイナミック・スタビリティ・コントロール)のコントロールユニットへ送り、そこからホイールスリップを抑える制御信号をエンジンコントロールユニットの制御系へと送りエンジン回転を抑えてスリップを制御していた。 一方で新採用のARBシステムのホイールスリップ制御は、DSC内ではなくエンジンコントロールユニットの中にある。このためホイールスリップを検知すると、信号は長い経路をたどらず直接エンジンコントロールユニットの制御系へと送られ、エンジン回転を抑えてスリップを制御する。これにより制御速度が従来の3倍となり、体感では10倍近く速くなったように感じるという。 さらにARBはDSCと緊密に連携して、DSCを介入させずにFF特有のアンダーステアを大幅に抑制できるという。この結果ステアリングフィールも向上する。加えてBMWパフォーマンスコントロールというブレーキによるヨーモーメント制御との組み合わせで、さらにニュートラルなハンドリング特性を実現する。 こんな具合で複雑な制御が与えられた新型1シリーズは、確かに他のFFとは異なるスッキリした走りが実現されていた。FF車では、操舵と駆動の両方を前輪でまかなうため、操舵感の中に駆動の感触が雑味として伝わりFRのようなスッキリしたフィーリングを実現するのが難しい。だが新型1シリーズはARBやパフォーマンスコントロール、そしてDSCとの連携で気持ち良いフィーリングを作り込んだのだ。 Aクラスやマツダ3と比べて明快なスポーティさがある今回は一般道での試乗ゆえ高負荷のコーナリングはしていないが、おそらくハイペースのワインディングやサーキットではさらに気持ち良さを体感できるはずだ。特にM135i xDriveはこのシステムの恩恵をしっかりと受けている。加えて必要な時にはAWDにもなるため安定性も安心感も高い。 一方118dはディーゼルエンジンを搭載するからか、フロント周りに重さを感じることもあり、さすがにM135i xDriveほどのスッキリ感はなかった。とはいえ、軽快な走行感覚を持っていたのは確かだ。 また両モデルともに試乗して感じたのが、おそらくリアサスペンションがマルチリンクであるがゆえの懐の深さ。路面からの入力をしっかりと受け止める感覚がある。特にドライバーズシートに座って走りを感じ取ると、スポーティゆえに同乗者にとってはハードな乗り心地のM135iでも、運転席ではストローク感のあるリアサスの動きを感じる。また118dでは、ゆったりと心地よさを感じる動きが味わえた。こうして新型1シリーズは、FFレイアウトになっても他とは違う感覚の走りを実現していたのだ。 この辺りは既にMINIで相当にハンドリングを研究してきたノウハウが活きている。実際にエンジニアに話を聞くと、BMWもMINIも同じアーキテクチャは共同開発されており、そこからBMW的な、そしてMINI的なにチューニングが施されるという。そしてMINIの場合はゴーカートフィールと呼ぶクイックで独特のハンドリングを構築したが、新型1シリーズではBMWらしいスポーティな走りを作り込んだ。 ライバルと比べると、やはりメルセデス・ベンツAクラスとは互角で、新型1シリーズの方がスポーティさで優る。マツダ3と比べると、やはり新型1シリーズは分かりやすいスポーティさが光るし、エンジンとトランスミッションの気持ち良さで大きく差をつける。その意味では、新型1シリーズは欧州Cセグメントのトップクラスといえる高い完成度を持っていると断言できる。つまり、ライバルと同じ駆動方式を採用してもなお、従来からのBMWらしさ=走りで勝負できるプロダクトだったのである。 スペック【 118d 】 【 M135i xDrive 】 |
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