ステルヴィオを見に来てジュリアを買う今年4月、アルファロメオのスポーツセダン「ジュリア」に2.2Lディーゼルターボエンジンを搭載した「ディーゼル スーパー」が追加された。そのディーゼル スーパーと、2.0Lターボガソリンエンジンのハイパフォーマンスバージョン「ヴェローチェ」を乗り比べた。 試乗会当日、広報担当氏に「売れ筋は、SUVであるステルヴィオでしょう?」、つまりセダンは今そんなに売れないでしょう? という質問を投げかけると、「確かにステルヴィオ目当てに来店されるのですが、試しにとジュリアに乗ってみてジュリアを買われる方が多いんですよ」と教えてくれた。おぉ、なんと喜ばしいことだろう。このジュリアというスポーツセダンが持つ運動性能の高さをリクツじゃなく「楽しい」と感じ、迎え入れるユーザーがいるなんて。そう、ジュリアは現代においてめっきり数が減ってしまった、走りのセダンなのである。 最初にステアリングを握ったのは、4WDのガソリンエンジンモデル「Q4 ヴェローチェ」だ。搭載されるエンジンは2.0L直列4気筒ツインスクロールターボで、最高出力は280PS/5250rpm、最大トルクは400Nm/2250rpm。ベーシックな2.0Lターボ(同200PS/4500rpm、330Nm/1750rpm)に対して+80PS、+70Nmの出力アップが果たされていることから、イタリア語で速さを意味する「ヴェローチェ」の名前が付けられている。単純明快にして、なぜかカッコよく思えてしまうそのネーミングは、初代ジュリアのクーペから頂いたものだ。 そしてこのQ4 ヴェローチェ、ハンドリングが実にイタリア車らしい軽快感に溢れている。初代ジュリアになぞらえた砲弾式のメーターナセルやクラシカルにまとめられたインテリアの質感に対して、電動ステアリングのパワーアシストは意外なほど軽く、アクセルを踏み込めば低速からスムーズに速度を乗せて行く。この軽やかなエスコートだけでも頬が緩んでしまう。キザな感じがいい。 わかりやすいスポーティさを持つQ4 ヴェローチェしかし伊達なだけじゃなく、中身が伴っているのがこのジェネレーションのアルファロメオである。小径のステアリングを切って行くと、まさに思い通りにクルマが曲がる。これだけパワステが軽いにも関わらず手の平にはタイヤからの接地感が伝わってきて、だからこそ自信を持ってこれを切り込んで行ける。サスペンションはしなやかにロールし、これが深まるほどタイヤのグリップが上がって行く。この横Gを支えるシートも、歴代で一番体にフィットする。「156 GTA」の、ものすごくカッコよいけれど全く体を支えなかったシートがウソのようだ。 5500rpmからレッドゾーンが始まるエンジンは、6000rpmまできっちり回る。低回転でトルキーに走らせても何ら文句はないが、高回転まで滑らかに回るターボユニットのフィーリングをスポーティかつ優雅と感じさせてくれるほど、シャシーには余裕がある。8速のギアを持つトランスミッションは、ロックアップの確かさと歯切れの良い変速スピードによってトルクコンバーターを意識させない。まさに280PSが手の内にある。それがQ4 ヴェローチェの美点だ。 その最大の秘訣となるのは、ジュリアとステルヴィオのために開発されたプラットフォーム「ジョルジオ」だ。このボディは歴代アルファロメオの中でも、文句なしに一番の剛性と完成度を持っている。ここまで見事にサスペンションを動かせるボディは、初代ジュリア以来だと断言できる。あまりにも長すぎた復活劇だ。 そしてこれを支える駆動方式は、今回のQ4 ヴェローチェはFRベースの4WDとなる。折しも当日は生憎の天候だったが、そのスタビリティは文句なし。むしろ4WDをまったく意識させずに素直な旋回性を維持しながら、安心してパワーをかけていくことができる。 この完成度はBMW3シリーズに匹敵すると思う。そして両者を区別するという意味では、ジュリアの方が若々しくて軽やか。3シリーズは日常域でやや老獪(ろうかい)なコンフォート性がベースとなり、走らせるほどに質感が深まって行く。すなわちジュリアの方がわかりやすいスポーティさを持っていると言える。3シリーズも先代に対して軽さをまとったとは言え、そのまったり、しっかりとした味わいはジュリアに比べるとドイツの肉料理のよう。対してジュリアは、トマトベースの美味しいスパゲティや、薄い仔牛肉をさらっと揚げたコトレッタ(カツレツ)のようだ。 ディーゼルはしっかりとした乗り味ディーゼルユニットを搭載した「ディーゼル スーパー」は、Q4 ヴェローチェとは違い重厚な乗り味が興味深かった。これは単純に重たいディーゼルユニットを支えるサスペンション剛性の違いがもたらした差なのかと思いきや、搭載されるエンジンは、クラスいち軽いオールアルミ製。Q4 ヴェローチェに対し、車重は70kgも軽いのである。つまり、本当にアルファはこのジュリアを自らのアピール通り「スポーツ・ディーゼル」と捉えているのだ。 具体的にはディーゼル スーパーの方がQ4 ヴェローチェよりもしっかりした乗り味なのだが、しかしその乗り心地にゴツゴツ感はない。Q4 ヴェローチェが細身のスパゲティだとしたら、こちらは太麺のリングイネか。その足回りにはもっちりとした腰がある。そしてこの特性は、ディーゼルユニットの濃厚なキャラクターとも合っている。2.2Lの排気量を持つエンジンは、450Nmの最大トルクを1500rpmという極めて低い回転で発揮する。かつ190PSのピークパワーも3500rpmという低い回転で得られるため、トップエンドの5000rpm付近まで回すよりは、8速ATの細かいギア比を使い、ショートシフトで速度をグングン乗せて行く走りとなる。同じユニットを搭載するステルヴィオに対して、車重が200kg以上軽いことからも、馬力こそ20PS低いが動力性能に見劣りはない。むしろ加速感はこちらの方が上だ。 落ち着きのあるステアフィール。少ないロール量でピタッと収まるコーナリングフォーム。ひらりと舞うQ4 ヴェローチェに対し、じっくりとドライビングを見つめ直せる余裕がこのディーゼル スーパーにはある。最もハイパワーなクワドリフォリオほどではないが、本格派のフットワークである。この足回りを2.0Lのガソリンモデルに与えてもよいくらいだが、ソース(エンジンユニット)の個性に対するパスタ(シャシー)の選択は、シェフ(アルファロメオ)のセンスを尊重するのがよいと思えた。 プレミアムを名乗るなら走り以外の先進性も磨くべきジュリアに足りないものがあるとしたら…。それは見た目のアピール度だろうか。イタリアというとデザインやファッション性にビビッドな印象を持つかもしれないが、シルエットは美しくともディテールの主張は控えめなのが彼らの美徳である。だからドイツ勢のような、相手を押しのける迫力はあまりない。 またナビゲーションやインフォテインメントをスマホ任せにするのは確かに合理的だが、ちょっと投げっぱなしに過ぎる気もする。早くその開発を進め、ドイツ勢の向こうを張ってクルマから先に「ボンジョルノ!」としゃべりかけてくれるようになって欲しいものだ。スマホ連動で今日の予定を読み上げてくれるようだが、ドライバーはスマホではなくクルマとつながりたい気がする。 具体的に何とは言えないのだが、ともかく単純に走り“だけ”でアルファロメオが満足してしまっているような雰囲気が、そこはかとなくにじみ出ている気がするのだ。格付けは上になるが、アウディの「A6」が、シートベルトアンカーにまでLEDライトを配したのは見事だった。やり過ぎなくらいインパネのスイッチ類を廃してタッチパネル化をし、キーをオフにすればライトのLEDがひとつずつ消えて行く様は、近未来的だ。またボルボのセンターパネルも縦型で見やすく、機能も充実している。 伝統美を受け継ぐのと先進性を追い求めることは両立できる。アルファロメオがプレミアムブランドとしてこの先生きて行くのであれば、こうした部分は疎かにできないと思う。 スペック【 ジュリア ターボ ディーゼル スーパー 】 【 ジュリア ターボ Q4 ヴェローチェ 】 |
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