SUVとしては明らかに硬めなX3 M コンペティション6月23日に富士スピードウェイ「BMW MOTORSPORT FESTIVAL 2019」でお披露目された新型X3 M/X4 M。これに先だってアメリカはニューヨーク州近郊の一般道と、モンティセロ・モータークラブのトラックコースで試乗することができた。 X3とX4といえば、BMWのミドルレンジを担うSUV。BMW流に言えばX3がSAV(スポーツ・アクティビティ・ビークル)であり、X4がSAC(スポーツ・アクティビティ・クーペ)となる。日本においては、押し出しの強さとサイズ感を両立させたプレミアムSUVだ。そんなX3とX4に、待望の「M」が登場した。しかも今回試乗するのはさらにハイパフォーマンスな「M コンペティション」となる。 最初に試乗したのは、よりスクェアなボディを持つX3 M コンペティションだった。走りだしから印象的だったのは、ビシッ! と筋が通った乗り味だ。サーキット走行を視野に入れるM2 コンペティションほどではないがそのサスペンションはしっかりとMシリーズをイメージさせ、SUVとしては明らかに硬め。コンフォートモードでの走り出しながらも段差を乗り越えたときの身震いには、思わず「やり過ぎでしょ!」と笑ってしまった。笑えるほど余裕がある、とも言えるのだが。 しかしこの硬さに体が馴染み、サスペンションの伸縮状況が読めるようになってくると、真のMらしさが現れてくるから面白い。その硬さはダンパー減衰力によるものではなく、スプリング剛性が支配的。よって短い横揺方向にはやや弱いが、垂直方向の動きでは、ダンパーがとても素直に追従しているのがわかる。段差や突起ではスプリングが“スッ”と縮み、短いストロークの間にダンパーが入力を素早く減衰する。 ハンドルを切れば少なめのロールで大きなボディを支え、どっしりとした安定感を持ちながらも、素早くカーブを曲がって行く。そしてこれは後述するM4 コンペティションとの対比によってわかってくるのだが、BMWがM4より50mmほど高い全高、30mm狭い全幅のボディで510PSのパワーを受け止めるべく、M社によってほどこされた硬さなのであった。 ===== 洗練された新開発のガソリンユニットを搭載そんなX3 M コンペティションのエンジンには、新開発の「S58」ユニットが搭載された。直列6気筒ツインターボという形式に変わりはないが、排気量は「S55」ユニットの2979ccから、2993ccへと僅かにアップ。ボア×ストロークは84×90mmへと改められた。 またシリンダーヘッドはその冷却効率をさらに高めるべく、鋳造型が3Dプリンタで作られた(世界初だという)。これによって砂型鋳造ではなしえなかった複雑なウォーターライン形状が可能になったとエンジニアは語っていた。また鍛造ピストンだけでも3kg、エンジン全体では約11kgの軽量化を果たし、水冷式インタークーラーをも装備するに至った。 こうした進化によって発揮される出力は、通常の「M」で最高出力が480PS/6250rpm、最大トルクは600Nm/2600-5600rpm。対してM コンペティションは600Nmの最大トルクを2600rpmから発揮して5950rpmまで維持し、510PSの最高出力を6250rpmで絞り出すまでになった。ちなみに両者の最高出力発生回数は同じ。エンジンとして機構的な違いはなく、マッピングのマネージメント(や多少の排気系の違い)でパワー差を出しているのだという。 実際このS58ユニットは、「M4クーペに積んだらさぞかし……!!」と思わせるほど進化を果たしていた。まずトルクの出方が、著しく洗練された。S55ユニットが持っていたウェットでは全開がためらわれるような野蛮さはなくなり、アクセル開度に対するトルクの出方はよりリニアになった。X3 MがMxDrive(4WD)ということもあるが、自信をもってこれを踏み込んで行くことができる。 時代の流れもあるのだろうか、そのサウンドはとりわけ過激ではない。しかしストレート6ならではのスムーズな回転上昇感は健在で、回すほどに整って行くメカニカルノイズが心地良い。またアクセルを閉じても以前のような、威嚇系のアンチラグサウンドがおおっぴらには響かなくなった。 こうしたエンジン特性と、前述したシャシーが組み合わさると、X3 MコンペティションはSUVらしからぬ骨太で男性的な走りを披露する。良く効くブレーキ。ステアすれば小さなコーナーでもクルリと回り込み、高速コーナーではビターッと安定するシャシー性能。アクセルを踏み込めば背中がグーッと押しつけられ、伸びやかに加速して行く。 正直オープンロードでは、さらに足回りの減衰力が高まるSPORT以上のモードが必要だとは思わない。むしろコンフォートモードでの減衰力がオールラウンドに路面の起伏へ追従し、速度を上げるほどフラットになる乗り心地にハイエンドモデル特有の上質感が味わえる。 ボディサイズも車線幅が広いアメリカの道路ではジャストサイズだった。そのパワーを目くじら立ててではなく、余力として使える環境が整っていて、M社がこの地を試乗会場に選んだ理由がよくわかった。 FR車的性格のX4 Mコンペティションはしなやかな足をもつそんなX3に対して、クーペモデルとなるX4 Mコンペティションはさらにスパルタンなモデルになるのかと思いきや、その予想は良い方向へと裏切られた。より低くワイドなボディを持つX4は、そのサスペンションをしなやかな方向性へとまとめてきたのである。 試乗はまず、トラックから始まった。コースは全長6kmほどの長さで、路面はクリーン。しかしカントやバンクのない平坦なコースはランオフエリアが芝生になっていて、インストラクターはツイスティな中速コーナーでも、かなりの速度でぶっ飛ばす。 ここでX4 Mコンペティションは、懐深いサスペンションのキャパシティをもって、初めてのコースをストレスなく攻略させてくれた。緩い高速コーナーからのアプローチでは、ハンドルを切りながらのブレーキングでも4輪が路面を捕らえ姿勢が乱れない。そこからグッと切り込んでさらに切り返すような難しいS字セクションでも、フロントタイヤのグリップは途切れず、ノーズを積極的に入れて行く。とにかく素直に、この巨体を良く曲げる。縁石をまたぐような場面でもタイヤはバネ下でスムーズに上下して、車体はフラットな姿勢を保ったままだった。 ただし曲がり込んだコーナーの出口からアクセルを全開にするような場面では、失速するような場面が何度か見受けられた。これはDSC(車両安定装置)が介入してパワーを絞るからだ。当日はDSCを完全に切ることは許されなかったが、その制御はパワーオーバーステアが出る前に出力を絞る方向性。このことからもM4 コンペティションはトラクションを活かしてガッツリ立ち上がる4WDというよりは、FR車としての性格が強いと思えた。基本的にはSPORT+に入れてもこの特性は同じで、コース幅をいっぱいに使ってトラクションを失わないように走らせないと、速くは走れない。 M5のようにリアを若干滑らせながらも向きを変え、フロントで引っ張って行くキャラクターにしないのは、この背の高さに対する安全性をBMWが確保したいと考えているからだと思う。よってシャシーバランスは弱アンダーステアだが、運転感覚はとても自然だ。 呆れんばかりの走りには“無敵感”すら漂うクローズドコースにおけるストレート6のパワー感は、圧倒的というほどではなかった。確かにそのサウンドは心地良いが、制御も含めたトータルで見ると、M4 コンペティションは完全なシャシーファースターだ。 総じてM4 コンペティションは、ロードホールディング性能が際立ち良く曲がる、BMWらしいスポーツSUVだと言えた。また帰路はこれをオープンロードで走らせたが、やはりX3 Mコンペティションに対してその乗り心地は、若干しなやかであると感じた。 いやはや新しいXシリーズのMモデルは、驚きの運動性能であった。だが果たしてSUVに、こうしたパフォーマンスが本当に必要なのか? といえば、私のような庶民派にしてみると、そこに疑問が残ることは事実である。広く見晴らしの良い室内空間を持ち、走らせればへたなスポーツカーよりも速く、かつスポーツカーのようにガマンや不便を強いられることがほとんどない。その人間の欲望を全て形にした走りにはもはや呆れんばかりで、そこには“無敵感”すらうっすらと漂っている。 そんなSUVだけに富裕層が放っておく訳はなく、今後もこうしたプレミアムスーパーSUVのシェアで、各社の競争は激しさを増して行くことだろう。ただそんな中にあって今回のった2台のM コンペティションは、下品さや嫌みな感じがないところに好感が持てた。むしろBMWらしい爽やかさがあり、これこそが「M」の目指す方向性なのだろうと感じた。 スペック(X3 M コンペティション)【 X3 M コンペティション 】 スペック(X4 M コンペティション)【 X4 M コンペティション 】 |
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