RZに開発中の新型ショックアブソーバーを装着モータースポーツとスポーツチューニングの振興を目指す「ワークスチューニンググループ」が、毎年メディア向けに開催している合同試乗会。今年はツインリンクもてぎで開催され、TRD、NISMO、無限、STIの4社が自慢のデモカーを持ち寄った。 第1弾は新型「スープラ」を筆頭に、「RAV4」や「プリウス」のカスタマイズカーを展開したTRDのレポートをお送りする。注目はなんといっても新型スープラで、既に発表済みであるGRパーツ(TRD)のカーボン製エアロ、19インチ鍛造アルミホイールなどを装備したデモカーが2台用意された。 その2台のデモカー、かたや3.0L直6ターボの「RZ」、かたや2.0L直4ターボの「SZ-R」ということで、最初は動力性能の違いを体感させてくれるのかな? と思いきや、さにあらず。実は「RZ」の方には、ヤマハとの共同開発を進めている真っ最中だという新型ショックアブソーバー「TRAS」と、おなじみのパフォーマンスダンパーが装着されていたのだ。 TRDとしては、パーツの有無で乗り味にどれだけ違いがあるか実感してもらいたいのはもちろん、開発段階の仕様に対してメディア各社がどんな反応を示すのか、フィードバックを得たいという意図もあったそうだ。開発試作車に第三者を乗せる試みは、TRDとしても過去に例のないことだそうだが、それは余程の自信があったことの裏返しとも容易に想像がつく。事実、「TRAS」とパフォーマンスダンパーがもたらしたフィーリングの違いは驚くべきものだったのである。 微細な入力がハケでひと拭きされたような乗り味まずはノーマルサスペンションを備える「SZ-R」に乗ってみる。メーターやシフトレバー、エンジン始動時の音の演出など、一度降りてスープラであることを再度確認したくなるほど、最初はBMW車に乗っているような錯覚を受けてしまった。走り出しの印象も同様、低速で転がしている範囲においては意外と重厚感のある乗り心地。いい意味でどしっとした安定感を感じる部分は、トヨタとBMWがいちから開発した新規プラットフォームの賜物と言えるだろう。 一方で、それなりに高い速度域でコーナリングすると、ワイドトレッド・ショートホイールベースという回頭性重視のパッケージングが生きてくる。スポーツモードを選択した時のエンジンレスポンスや変速の素早さ、引き締まった減衰力がもたらすスポーティな乗り心地の変化もわかりやすい。それにはTRDのエアロパーツと軽量な鍛造ホイールが貢献している部分もあったに違いない。 そして今度はヤマハのショックアブソーバー「TRAS」とパフォーマンスダンパーを装着した「RZ」に乗ってみる。「SZ-R」と比べた走りの変化はすぐに伝わってきた。ボディを経由して体を振動させるはずの微細な入力が、まるでハケでサッとひと拭きされたように洗い流され、明らかに乗り心地の質感が高まっているのである。コーナリングにおける4輪の接地感も増した印象で、「RZ」の方がより安心して狙ったラインをトレースしていくことができた。 チューニングの性格としては、スープラが持ち合わせるピュアスポーツとしての側面を際立たせるというより、ラグジュアリーGTとしての側面を質感高くアップグレードした印象。そういう意味では「SZ-R」よりも高価格となる「RZ」の方に「TRAS」とパフォーマンスダンパーを装着したTRDの意図も汲み取れる。 それまでのショックアブソーバーと逆の動きをするヤマハは1997年に「REAS」という相互連携アブソーバーシステムを開発し、先代スープラの「RZ」グレードに採用された実績を持っている。その経緯も踏まえ、研究開発中の最新ショックアブソーバーである「TRAS」をTRDが採用し、新型スープラ向けにチューニングを施したのが今回の試乗車。「TRAS」はまだ量産化するための課題解決を目指している段階とのことだが、官能評価を重視するTRDがしつけると、上述したような魔法の足に仕上がることは現段階でも実感することができた。 「TRAS」の内部構造についてはイラストを参照していただきたいが、肝となるのはショックアブソーバーのロッドを引き込む“マイナス反力”が働いていること。一般的な単筒式ショックアブソーバーは高圧ガスの力でロッドが外方向に押し出されており、ショックが縮む際のストロークに対しては突っ張るような動きを示す。「TRAS」はその逆で、縮み側にはプリロードがかかったような状態のため初期の突っ張り感がなく、伸び側に対してより大きな反力を働かせるのである。 実験を通してデータが実証されている「TRAS」の効果は、大きく分けてふたつ。ひとつはコーナリングで発生する内輪の浮き上がりが抑えられる(=インリフトが抑制される)ため、旋回中の姿勢が安定すること。もうひとつは、段差を通過した際の上下動の収束が早いため、乗り心地が改善されるということだ。 まだまだこれからだが期待できる技術先に述べたように微細な振動が減少したように感じられたのは、どうやらロッドの突っ張り感がなく、ショックの収まりも早いということで説明がつきそうだ。だが試乗中には、路面にできた深めの段差を通過した際、ドンッと身体に感じる衝撃の大きさはノーマルと大差ないか、むしろ大きく感じることもあった。聞けばバネレートは純正よりもフロントが5%、リアが10%高められているとのことなので、バネの硬さがそう感じさせたのかもしれない。 まだまだチューニングの持って行き方次第でフィーリングを変えられる余地はあるそうで、TRDとしても「TRAS」という素材のよさをどう引き出すのがベストなのか思案中のようだ。また、現時点で「TRAS」は新型スープラの可変ダンパーシステムには対応していないので、ノーマルサスのようにスイッチひとつで好みの減衰力にチェンジ! という訳にはいかなさそうである。 量産性や価格など、まだまだクリアしなければならない課題を多く抱えるという「TRAS」だが、ショックアブソーバーという機構に新しい可能性を示す、おもしろい存在であることは確か。ぜひ、TRDとヤマハ、双方のがんばりで市販化を実現させてもらいたい。 |
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