CX-80に試乗。CX-60のネガは払拭できたか?マツダは10月10日、3列シートを備えた大型SUV「CX-80」の国内販売を開始。発売に先立ち一般道・高速道路で試乗する機会を得た。先んじて結論を言うと、「ようやくスタートラインに立った」というものだった。 ◎あわせて読みたい: CX-80は、2列シートSUVである「CX-60」から続く、マツダが「ラージ商品群」と呼ぶシリーズの第4弾。ラージ商品群は、CX-60と今回のCX-80のほか、北米向けの「CX-70」と「CX-90」で構成される。 ラージ商品群の狙いは、「SKYACTIV マルチソリューションスケーラブルアーキテクチャ」を採用し、新開発の直列6気筒エンジン(ガソリン/ディーゼル)やマイルドハイブリッドシステム(MHEV)、プラグインハイブリッド(PHEV)などの電動化技術を組み合わせることで、各国での厳しい環境規制をクリアしながら、マツダの理想とする“人馬一体”の意のままの走りを実現するというもの。 エンジンがどんどんと少気筒化・小排気量化し、多くのモデルがスペース効率を求めFF化する中、時代の潮流に逆らった大排気量化・FRベースのコンセプトを発表した際、多くのクルマ好きが色めきたった。 しかし蓋を開けてみると、トップバッターとして登場したCX-60はハンドリングやデザインで高い評価を得たものの、不具合が頻発し評判に大きく傷をつけたのは周知の事実。事前の期待が高かっただけに出だしで躓いた格好となってしまった(2024年1月~6月の販売台数は、前年比20.1%の3516台で乗用車全体の50位)。 >>CX-80のデザインを写真で詳しくチェックする ◎あわせて読みたい: 乗り心地は日常使いでほとんど不満が出ないレベル新たに登場したCX-80は、ラージ商品群の中でパーツや技術を共有しながら、先に販売を終了した3列SUV「CX-8」とフラッグシップセダンである「マツダ6」の両方のポジションを埋める責務を担っている。3列シートSUVとしての高い実用性と、フラッグシップとしての高級感や走り、乗り心地など、求められる要求は高く多い。そして何より、多くの人の期待とマツダの今後の命運を背負っているのだ。 今回筆者が試乗したのは、売れ筋となるであろう「XD Lパッケージ(4WD)」と、最上級の「PHEV プレミアム・モダン(4WD)」。どちらとも100km(1.5時間)ほど高速道路がメインの短時間の試乗だったため、長時間乗った印象や一般道、ワインディングでの詳細な走りに関しては、また別の機会に譲る点をどうかご容赦いただきたい。 まずはデザイン。CX-60と比べホイールベースが250mm延長され、その分全長も大きくなり非常に堂々としたサイズとなった。フロントフェイスといったディテールの好みは人それぞれだが、その体躯は非常に流麗で、キャラクターラインや抑揚を抑えたシンプルな造形は(どのグレードでも)フラッグシップとしての華やかさや迫力が宿っている。 インテリアは造形や素材使いを含め質感が非常に高い。ラギッドなSUVが全盛となる中、デザインの美しさでは個人的に国産SUVの中ではトップレベルにあるように思う。 >>CX-80のデザインを写真で詳しくチェックする 「XD Lパッケージ」から試乗する。マツダの理想の走りを追求した結果、SUVとは思えないほど路面の入力をダイレクトに伝えるCX-60の印象と比べ、入力の角がかなり丸くなったというのが第一印象だ。 開発者曰く、乗り心地のためにダンパーの減衰を上げバネを柔らかくし、リアのスタビライザーまで省いたという(そのほかにも改良は多数)。これなら日常使いでほとんど不満は出ないのでは? と素直に感じた。 ◎あわせて読みたい: 走りはスポーティ、バウンスが収まらないのは要改善Rがキツくなる都市高速などを流すシーンはCX-80の真骨頂だ。 舵を入れた初期応答がややマイルドになっており、CX-60よりボディが大きく重いため相対的に弱アンダーステアにセッティングしたとエンジニアは教えてくれたが、大柄なボディと高い重心高をもろともせず、足回りはしっかりと粘り気持ちよくコーナーを駆け抜けていく。3列シートを備えたSUVということを忘れ、スポーツセダンないしスポーツワゴンのような走りだ(そもそもSUVは車検上ステーションワゴンに分類されるのだが……)。 もちろん、この走りを実現するため、一般的な足の長いSUVと比べまだ乗り心地に硬さは残るし、路面のサーフェイスが悪ければそれなりに振動は入ってくる。しかし、スポーツモデルに乗り慣れたユーザーにとっては許容できる範囲内に収まっているのではないだろうか。 マツダらしくエンジンは、ディーゼルとは思えないほど軽やかに吹け上がり、直列6気筒らしい粒の整った回転フィールに走り好きは思わず笑みをこぼすだろう。踏み込めばエンジン音もしっかりと調律され(ディーゼル特有の商用車的ガラガラ音ではなく)、トルコンを廃した8速ATはダイレクト感に溢れ走りの高揚感をさらに高めてくれる。SUVと思って乗ると脳が錯乱する。おまけにガソリン計が満タンから1/8ほど減ってもまだ900km以上の航続距離を示していた。恐るべし。 >>CX-80のデザインを写真で詳しくチェックする ただ1点、ラージ商品群はそのサスペンションの構造上、ピッチセンターを後ろにしたためボディがバウンス挙動(並行に上下動)する。 バウンスも一発で収まれば問題ないのだが、路面のアンジュレーションによっては、船に乗っているかのようにフワンフワンとバウンスが収束しないタイミングが何回かあった。この後に乗ったPHEVでは、バッテリーの重量増なのか個体差なのか精度の問題なのか、この悪癖は感じなかったのでマツダに改善をお願いしたい。 ◎あわせて読みたい: 新たな価値観のフラッグシップ像を提示したPHEV続いてPHEVに乗る。Lパッケージと比べ200kgほど重量が重くなるため、軽快感というのはやや薄くなるが、やはりその走りの気持ちよさは国産SUVでは抜けている。 乗り心地に関しても、先に感じたバウンスは抑えられており、やはり固さは残るもののこちらも普通の人が乗れば「こんなもの」で済むレベルだろう。 ただ、素のディーゼルモデルでは気にならなかった8速ATが、低速でEVのみで走行から急にアクセルを踏み込んでエンジンが始動するとショックを伴う場面が時折見られた。MT車でクラッチを勢いよく繋いでしまった時のように。 ラージ商品群はスムーズさよりも、ダイレクト感と燃費性能を優先しトルコンレスATを採用したのだが、制御や精度をCX-60より相当煮詰めた(エンジニア談)とはいえ、やはりある程度ショックが残るのはトルコンレスの宿命なのかもしれない。 >>CX-80のデザインを写真で詳しくチェックする マツダは今回、CX-60で上がった批判に目を背けることなく真摯に真正面から改善してきた。そして試乗会では、CX-80で得た知見をCX-60を含め他のラージ商品群に生かしていくことも言明していた。 今回の試乗を通じ、ようやくマツダがラージ商品群でやりたかったこと、伝えたかったことが見えてきた気がした。 ACCの精度やNVHなど、フラッグシップとしてはまだ荒さもありさらなる熟成と改善を望む箇所もあるが、その走りは間違いなくクルマ好きを感動させるだろうし、大人が“きちんと”座れる3列シートという利便性を備え、SUV、セダン、ミニバン……といったカテゴリーの枠には収まりきらない、ライフスタイルを豊かにする新たなフラッグシップ像を作り上げてきた。 マツダは今後もCX-80を進化させていくと言っている。マツダの威信をかけたラージ商品群は、今日ようやくスタートラインに立ったのだ。このクルマの持っているポテンシャルは、まだまだこんなものではないはずだ。 (終わり) ◎あわせて読みたい: |
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