600eに試乗しその実力をチェックフィアットは9月10日、電気自動車「600e(セイチェントイー)」を発売した。 600eは、フィアットブランドのコンパクトSUVで「500X」の後継モデル。ステランティスグループの最新プラットフォーム「マルチエナジーCMP」を採用し、現在のところ電気自動車(BEV)のみのラインアップだが来年春にはマイルドハイブリッド仕様も登場する予定だ。 フィアットといえば世界的に「500」がアイコンとして確立されているが、ルパン三世の愛車として有名な「ヌオーヴァ500」の登場は1957年。実はその2年前の1955年に初代「600」が発売されているのは少々意外ではないだろうか(“トポリーノ”の愛称で親しまれた500は戦前に登場しているが……)。 そんな歴史的な名前が復活しただけでも喜ばしいことだが、600eはどのような実力なのか、短時間ながら高速道路と街中で試乗することができた。なお、長距離走行時のフィーリングや電池残量の変化などはチェックできなかったので今回はご容赦いただきたい。 >>600eの愛くるしいデザインを写真で詳しくチェックする デザインはまさしく500ファミリーのそれだ。愛くるしい瞳やコロンとしたボディに、初代600を彷彿とさせるディテールを落とし込む。ヘッドライトの上半分がカットされ逆スラントしたノーズが醸し出す“いたずらっ子”のような表情が憎い。バンパーやホイールに仕込まれたクリスタル調のデザインも特徴的で、信号待ちで止まっていると多くの人が視線を投げかけてきた。 インテリアも、「FIAT」のロゴがが大胆に配されたシート、光沢を抑えたメタル調の質感が特徴的なダッシュボードなど洒落っ気がたっぷりと効いている。長きにわたって過ごす車内空間、シートに座るたびにテンションがフワッと高まる演出はさすがイタリアンメーカーだ。 ◎あわせて読みたい: ガソリン車から乗り換えても自然なフィーリング500eと異なるのはその利便性の高さだ。コンパクトなボディながら、後席は172cmの筆者が座って何ら窮屈さは感じないし、トランクも日常使い~1泊2日程度の荷物は余裕で飲み込むサイズを誇る(通常時は360L、後席を倒すと最大1231L)。 国内発表会でステランティスジャパンの代表取締役社長の打越晋氏は「500に一回りではなく“百回り”の魅力をプラスした」という趣旨の発言をしていたが、500にはないこの実用性の高さは、今までそのデザインに惚れながらも購入を躊躇していた層には朗報に違いない。 >>600eの愛くるしいデザインを写真で詳しくチェックする イグニッションをONにして走り出す。BEVなので当然ながら静かにスルスルと走り出す。シートも座面がたっぷりとして安っぽさはなく快適だ。 着座した際の見晴らしの良さはフィアットの伝統だが、SUVに分類される600eは車高が高いのも相まって、狭い住宅街を通り抜ける際に目線が高く安心感があった。なお、ボディサイズは全長×全幅×全高=4200×1780×1595mm、ホイールベースは2560mmでヤリスクロスとほぼ同等。国内でそのサイズに困ることはほぼないだろう。 高速道路に入る。156ps/270Nmを誇るモーターは1580kgの車体を軽々と加速させるが、出力の出方は決してドッカン系ではないのも好感が持てる。アクセルのつきも自然で、一般ユーザーがガソリン車から乗り換えても違和感を感じないのではないだろうか。重たいバッテリーが床下にあるおかげか、高速巡行でもボディが安定しコーナーもスッキリと駆け抜けていく。 スポーツモードにするとより快活な走りを見せるが、やはりそこは電気的なデジタルな世界。 筆者はかつて500に搭載されていた「TwinAir(直列2気筒875ccターボエンジン)」のポコポコとした力強いフィーリングにドラマ性を感じていたので、デザインだけでなく走りのフィーリングにもドラマ性があると、このクルマがますます魅力的になるのではないかと思ってしまった。 しかし、購買層の半分以上は女性で20~30代の若者の支持が高い600e、エンジンのフィーリングにドラマを感じる筆者のようなクルマ好きはごくごく一部の少数派なのである……。この辺りはマイルドハイブリッドに期待したい。 ◎あわせて読みたい: 最大の懸念は585万円という価格今回、トータル50km弱の走行で電池残量は82%→76%だった。撮影のためにエンジンをかけっぱなし……ではなく電源をONにした状態で放置した時間もあったが、メーターに表示される電池の減り具合は常識の範囲内だった。ちなみに30度を超える気温で当然ながらエアコンもオン。 ステランティスの発表によれば、一充電あたりの走行距離は493km(バッテリー容量は54.06kWh)で遠出も余裕でこなす実力を秘めている。標準装備のナビには充電ポイントが常時表示され“電池切れ”の心配も少ない。 ただし、600e最大の懸念は585万円という価格。一般ユーザーにとって価格だけは正直可愛くない。 充電インフラが脆弱な日本では、自宅で充電できることがBEV購入のマスト条件だが、そこをクリアし、この洒落っ気たっぷりの魅力的なデザインに惚れ込みポンっと気前よく払えるならば、600eは非常に魅力的なコンパクトSUVの1つであることは間違いないだろう。明るく楽しい毎日が待っているハズだ。 しかし、CEV補助金(65万円)や各自治体の補助金を足せばもう少し価格は抑えられるが、実用的なコンパクトSUVは市場に溢れているし、500万円という価格には国内外に多くの魅力的な選択肢が控えている。 日本では近い関係のモデルを“兄弟車”という表現で呼ぶことが多いが、イタリア語でクルマを表す「macchina」は女性名詞。多くのユーザーにとって、500の“ビッグシスター”である600の真の実力が見えてくるのは、やはり来年登場するマイルドハイブリッド仕様が登場してからなのかもしれない。 逆に言えば、マイルドハイブリッド仕様もしっかりと準備しているステランティスはなんて強かなのだろうか。 (終わり) >>600eの愛くるしいデザインを写真で詳しくチェックする ◎あわせて読みたい: |
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