オーラNISMOに4WDモデルが追加7月18日、日産自動車はマイナーチェンジした新型「ノートオーラ NISMO(以下オーラNISMO)」を発売した。 「ノート」は、日産の小型ハッチバックで初代は2005年に登場。現在販売されるのは、パワートレインを「e-POWER(ハイブリッド)」のみに絞り2020年に登場した3代目で、翌年にはボディ幅を拡大し専用の内外装を与えた「ノートオーラ」をラインアップするなど大きな変革を遂げた。さらに2021年には日本カー・オブ・ザ・イヤーを獲得。2024年上半期の乗用車ブランド別順位でも4位に入るなど、名実ともに日産を代表するモデルである。 ◎あわせて読みたい: そんなノートオーラをベースとし、「駿足の電動シティレーサー」をコンセプトにNISMOがレースで培ってきた技術やノウハウをフィードバックして作り上げたのがオーラNISMOである。NISMOらしいデザインやハンドリング、電動モーターによる俊敏な加速などが評価され、発売以来累計2万台以上を売り上げるヒットモデルとなった。 今回のマイナーチェンジ最大のトピックが初の4WDグレード「NISMO tuned e-POWER 4WD」の設定だ(名前が長いのはご愛嬌)。開発では、先日発表された電気自動車「アリア NISMO」で培った電動4WD技術だけでなく、長らく日産に受け継がれてきた4WD制御技術「アテーサE-TS」のエッセンスも盛り込まれているという。 >>オーラNISMOを写真で詳しくチェックする ◎あわせて読みたい: 【ノートオーラ】 パルサーGTI-Rの再来!?日産の4WDホットハッチと言えば、「パルサーGTI-R」を連想する読者もいるのではないだろうか。 4代目パルサーをベースに、世界ラリー選手権(WRC)参戦を目的に「グループA」規定で開発されたこのホットハッチは、2.0Lターボエンジン「SR20DET」に4輪駆動力最適制御システム「アテーサ」を組み合わせた激辛モデルで、ボンネットフードバルジと巨大リアスポイラーが特徴的。 開発陣に「パルサーGTI-Rの再来ですか?」と水を向けてみると、「よくご存知ですね(笑)。みんなの頭の中におぼろげにはあったかもしれないけど、正確に言うと『GTI-R復活!』ということではないです。でも、開発中に『そういう雰囲気があるよね』という会話はありました」とエピソードを語ってくれた。 もちろんパルサーGTI-Rはレースのためのホモロゲーションモデル。現代では「GRヤリス」の方が性格的に近いだろう。 一方のオーラNISMOは、「GT-R」や「フェアレディZ」といった高価格帯で占められているNISMOロードカーの間口を広げる使命を担っており、”電動シティレーサー”の名の元、街乗りからファミリーユースまで対応するオールマイティさがウリ。実際今回の4WDグレードは、雪国ユーザーに向けてという側面が強いそうだ。 4WDグレードに搭載されるエンジンは2WDモデルと同一のHR12DE型で、最高出力/最大トルク=60kW/103Nm。このエンジンを発電用として、100kW/300Nmのフロントモーターと、60kW/150Nmのリアモーターを駆動する。なお、リアモーターは制御を変えることで、ベースとなるオーラ(4WDモデル)比で+10kW/50Nmのパワーアップを果たしている。 ちなみにパルサーGTI-Rの最高出力/最大トルクは169kW/284Nm。バッテリーとモーターを搭載するオーラNISMO(4WD)の車重は1390kg(空車重量)と、パルサーGTI-Rよりも150kg以上も重くなっている(パルサーは車両重量1220kgで比較)。 >>オーラNISMOを写真で詳しくチェックする ◎あわせて読みたい: 日産が磨いてきた“速く走るための四輪駆動”アテーサE-TSを搭載した「スカイラインGT-R(R32)」の時代より「速く走るための四輪駆動」の技術を磨いてきた日産だが、さらにそこにアリアNISMOで培った電動モーターの緻密な制御技術もオーラNISMOに生かされているという。 具体的には、リアモーターの駆動力を上げることで、フロントタイヤをより積極的に旋回方向に使用。前後のモーターを独立して緻密に制御することで、高いライントレース性を実現し“早く踏める四輪制御”を目指したという。なお、アテーサE-TSからの最大の進化は電動駆動ならではの制御の細やかさ。電駆の圧倒的な制御応答で駆動力を緻密にコントロールできるそうで、今回はタイヤのスリップ率を細かく感知し、少しスリップを許容する方向でセッティングしているという。 そのようなことを頭に入れテストコースで試乗してみる。 赤いスタートスイッチを押すと、エンジンがブオンッと……目覚めないのは電動モデルならでは。Dに入れアクセルを踏めば、スルスルと静かに加速していく。 オーラNISMOのドライブモードは3種類。デフォルトが最も穏やかな「ECO」、回生ブレーキの減速力が最も弱く様々な路面で自然なフィーリングが楽しめる「NORMAL」(これがデフォルトでいい気もするが……)、そして4WDのポテンシャルを最も感じられる「NISMO」モードだ。 で、各モードの違いはこんな感じ。今回はECO→NORMAL→NISMOの順で試してみた。 ECO:お? 全くもって意味不明なのはご容赦いただきたいが、専用のシャシーパーツや補強によりスッキリとレスポンスよく反応するオーラNISMOのハンドリングはそのままに、4WD化に伴い前後重量配分が64:36→58:42に改善された結果(と車重が増えた分)、全体的にどっしり安定しながらコーナーをクリアしていく。車両の素の良さを味わえるのがECOの印象だ。今回はテストコースでの試乗だったので、一般道での乗り心地などは未知数だが、これなら普段使いに何ら不満はないだろう。 一方NORMALになると、駆動配分をコントロールする4WDのおかげでコーナー立ち上がりでアクセルを開けてもアンダーが出ず狙ったラインに自然と乗せていくことができる。自分の狙った通りにクルマが曲がってくれるので、運転に余裕が出て、速さだけでなく安心感にもつながっていく。 そしてNISMOモードでは、立ち上がりで後ろから蹴られる印象がより強まる。最大で前:後=3:7のトルク配分になるそうだ。この特性を意識してコーナー途中から早めにアクセルを開けてクルマを曲げていけるようになると“スポーツ四駆を操っている感”が一段と高まりコーナリングが楽しくなる。アテーサE-TSから日産が磨いてきた“速く走るための四輪駆動”の一旦を垣間見ることができるのだ。今回はテストコースで常識の範囲内の速度でしか走れなかったが、ミニサーキットに持っていっても非常に楽しそうだ。 >>オーラNISMOを写真で詳しくチェックする ◎あわせて読みたい: 誰でも手軽に買える値段にこそ価値があるもちろんオーラNISMOにも気になるところがないわけではない。 電動モデルらしく前席下にバッテリーが入るので着座位置はやや高め。スポーティモデルならもう少し着座位置を下げたい気もするが、これはオプションのレカロシートを入れても同じ印象だった。ハンドルもスポーティに走りたいならもう少し小径にしたくなる。また、60km/h程度からフル加速をすると“普通の”エンジン音がボーと車内に響く。せっかくなら音の演出なんかを入れるとより一体感が高まるのではないだろうか。 そんな重箱の隅をつつくようなことが思い浮かんでしまったりもしたが、何よりこのクルマは4WDグレードでも350万円を切ってくるのだ。パルサーGTI-Rと方向性は大きく異なるが、モノの値段がどんどんと上がるいまの時代、このパフォーマンスと実用性をこの値段で味わえるというのがこのクルマ最大の魅力だろう(しかもハイブリッドなので燃費も悪くないはず)。 気になる人は社外製のローシートに変えたり、ハンドルやマフラーを交換すれば、買った後のカスタムの楽しみだって広がるはずだ。NISMOからはオプションパーツも豊富に出揃っている。 同じく4WDホットハッチの「GRヤリス」はRZグレードで450万以上。しかもあちらは競技モデルの市販版という側面が強く良くも悪くも先鋭化しすぎている。そしてこちらも4WDホットハッチの代表格である「ゴルフR」は700万円近いプライスタグを掲げており、おいそれと買えるようなクルマではない。 その点オーラNISMO(4WD)は、扱いやすいボディサイズ、走って楽しいパフォーマンス、5ドアの高い実用性、そして日産のスポーツ四駆を手頃な値段で楽しめる、まさにちょうど良い絶妙なポジションのホットハッチだ。いや、むしろホットハッチはこうでなくちゃ! と言いたくなるようなクルマに仕上がっていた。 小宮CVE(チーフ・ビークル・エンジニア)は「このクルマに乗って、運転を楽しいと思ってもらいたい。特に、若い人に乗ってもらって『良いクルマってこういうのだよ』というのを味わってもらいたい」と話してくれた。 開発陣によると、バッテリー内の電気が足りなくなってしまうので連続周回は難しいが、サーキットでも十分対応できるポテンシャルはあるという。むしろフォーミュラEのように、電気を上手くマネジメントしながら速さを競うようなワンメイクレースがあってもいいはずだ。 日産(NISMO)には、せっかくこれだけ楽しいクルマを作ったのだから、買った後オーナーが楽しめる“場”を作ることもぜひお願いしたい。GT-RもフェアレディZも買えない中で、手頃に日産らしさを味わえるクルマがやっと帰ってきた。 (終わり) >>オーラNISMOを写真で詳しくチェックする ◎あわせて読みたい: |
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