電動化を推し進めるジャガー・ランドローバー英国の高級ブランドであるジャガー・ランドローバー(JLR)がリブランディングの真っ最中だ。 ジャガー社とランドローバー社の2つの自動車メーカー連合だった従来に対し、JLRを親としその配下に「ジャガー」「レンジローバー」「ディスカバリー」「ディフェンダー」の4ブランドを並列させることで、各ブランドの立ち位置を明確にする狙いがある。 かつて「XJ」を筆頭に“サルーンメーカー”として一定の地位を築いたジャガーはBEV専業メーカーへの生まれ変わり、レンジローバーは世界最高峰のラグジュアリーSUV、ディスカバリーはファミリーユースにも対応し冒険心を掻き立ててくれるSUV、ディフェンダーは道なき道を突き進むヘビーデューティという棲み分けである。 2023年は過去最高の売り上げを達成したJLRだが、いうまでもなくその好調なセールスの原動力は「ディフェンダー」や新型「レンジローバー」、「レンジローバースポーツ」といった新型車の相次ぐ投入だろう。特にディフェンダーは、日本でも都心から週末の郊外まで目にする機会は非常に多い。 そんな好調のセールスの裏で、2039年までにネットゼロカーボンを目指す同社は静かに電動化へと舵を切りつつある。現在の主力は紛れもなくディーゼルだが、4月には「レンジローバースポーツ」のPHEVモデルの価格を最大で258万円も引き下げた。装備品は従来から変わらずなので「純粋な企業努力(広報部)」だそうだ。 そんなJLRの電動モデルを一挙に集めた試乗会が千葉で開催された。今回はその中でも、いま最も売り出し中のレンジローバースポーツ、最高峰のレンジローバー、末弟の「レンジローバーイヴォーク」の3台で、JLRのPHEVモデルの実力を探る。 >>レンジローバーのPHEVモデルを写真で詳しくチェックする ◎あわせて読みたい: 土すら似合う体育会系エリートレンジローバーシリーズに“スポーツ”が追加されたの2005年。ポルシェ「カイエン」に触発されて開発されたと言われている。初代は旗艦レンジローバーではなくランドローバー「ディスカバリー」ベースだったが、2013年に登場した2代目よりレンジローバーと共通のオールアルミモノコックを採用。2022年に登場した3代目もその流れを受け継いでいる。 試乗したのは「オートバイオグラフィ P550e」。3.0Lの直列6気筒ターボエンジンにモーター、38.2kWhのバッテリーを搭載したPHEVモデルで、最高出力は294kW(400PS)、最大トルクは550Nmにも達する。バッテリーのみでの航続距離は116kmで、急速充電にも対応する。 レンジローバーシリーズといえば、ゆったりとした挙動による極上の乗り味と、外界とは明確に遮断されるような高い静粛性がもたらす独特の世界観が特徴だが、スポーツになったとてその美点はしっかりと受け継がれている。 電動ステップに足をかけ乗り込むと、シンプルかつモダンで上品な室内が広がり、これみよがしに凝った造形で煌びやかを演出する高級“ふう”メーカーとは一線を画す大人の余裕がそこにはある。 アクセルペダルに足を乗せれば、160kWのモーターが2870kgの車体を簡単にスルスルと動かす。かつて高級車は振動の少ないV12エンジンをこぞって採用したが、振動のないモーター駆動は高級車にピッタリだと感じさせる。 さらに強くアクセルを踏み込めばエンジンが始動するが、意識をしなければかかった瞬間はほとんどわからなかった。高級車としてそれだけ静粛性と振動を徹底的に抑えているのだろう。 >>レンジローバーのPHEVモデルを写真で詳しくチェックする ◎あわせて読みたい: カントリーロードで豹変する走りカントリーロードを流せば、このクルマが“スポーツ”を名乗る理由がよくわかる。 レンジローバーシリーズらしい優しい乗り心地はそのままに、寸分の遅れなくもなくボディが反応する。全長4960mm×全幅2005mm、3トン近い重量級ボディが一体感を持って動くさまはまさに圧巻だ。恐らくこれは「ダイナミックエアサスペンション」と高いボディ剛性の恩恵だろう。その証拠に、ギャップから大きめの入力を拾ってもボディはビクともしない。23インチという大径のオールシーズンタイヤを履きながら、この走りと乗り心地の両立はもはや異次元である。 静粛性と高いアイポイントによる安心感、一体感のある動きで速度感覚が麻痺してくるので、ふとメーターに目をやると肝が冷える。このクルマのオーナーは高い自制心が求められる。 短時間だが高速道路でも試乗できた。合流でアクセルを大きく踏み込むと、クォーンと乾いた音が遠くの方で響いている。直6らしい綺麗な回転フィールも気持ちがいい。闇雲に電動モデルらしい強烈な加速感を演出するのではなく、その走りはあくまでも自然体。ここにもレンジローバーらしい大人の余裕を感じさせる。 穏やかに乗りたければ極上の乗り味を提供し、スポーティに走りたければそれもしっかりと許容する、そんな両極端の異なる二面性が完璧に同居し、いつまでもこの世界観に浸っていたくなる、そんなクルマだ。 それが25年モデルからは250万円も安くなるなんて、なんてバーゲンプライス! もう言うことなし! と思って値札を見たら膝から崩れ落ちる。試乗車の車両本体価格1685万円。オプションの総額は307万2607円。そりゃいいクルマなわけだ、と急に自分ごとではなくなってしまい寂しさを覚えた。 >>レンジローバーのPHEVモデルを写真で詳しくチェックする ◎あわせて読みたい: 電動と内燃機関の良さをミックスした“新しい動力源”続いて乗ったのはフラッグシップの「レンジローバー SV P510e」。基本コンポーネンツは先のスポーツと同様だが、全体の味付けはこちらの方がさらにゆったりとしている。 静粛性の高さは言わずもがな、アクセル、ブレーキ、ハンドルなど全ての応答性がレンジローバースポーツと比べややダルになっているのだが、これは後席に人を乗せるショーファーカーとしての用途にも使われる故。それを理解すれば、このクルマで移動することがいかに安楽であるか納得する。 目の前を走る大型トラックのエンジン音は遥か遠くの方で微かに聞こえる程度。大型クルーザーに乗っているようにゆったりと運転すれば穏やかな気持ちになれる、そんな癒しの移動体験である。 車重が2980kgにもなるのでこちらの方がエンジンがかかるのはやや早めだが、ミッションの変速ショックもほとんどなくエンジンの存在感がさらに薄れる。 モーターかエンジンかという二元論ではなく、電動と内燃機関の良さをミックスした“新しい動力源”に乗っている感覚で、PHEV化は極上の移動を実現するための手段だと思い知らされる。レンジローバーの世界観にPHEVは合っている。いや、レンジローバーの世界観をさらに昇華させるために、徹底的に作り込んだのかもしれない。 なお気になるお値段は、車両本体価格2551万円、オプションの総額は403万776円なり。自分で運転するならスポーツの方が痛快だけど、後席に乗るなら足元スペースの広さも相まってレンジローバーも捨てがたいなぁ……なんて呟いてみるものの、それぞれ2000万円と3000万円のクルマなのでどこにも説得力がないのはご容赦いただきたい。 >>レンジローバーのPHEVモデルを写真で詳しくチェックする ◎あわせて読みたい: 電動化は実は二枚舌?最後に末弟の「レンジローバーイヴォーク(以下イヴォーク)」にも短時間乗ることができた。グレードは「オートバイオグラフィ P300e」。 レンジローバー/レンジローバースポーツは、エンジンとミッションの間にモーターを挟んだPHEVシステムだが、こちらは直列3気筒ガソリンエンジンがフロントを駆動し、モーターが後輪を駆動するシステムを採用。エンジンのみで走る場合はFFになるちょっと変わったシステムである。なお、EV走行換算距離は68km(WLTPモード)で、急速充電には対応しない。自宅で普通充電するのが基本となる。 エンジン始動直後は3気筒のプルプルとした振動を僅かに感じるが、少し走ればすぐに気にならなくなった。ややエンジンに存在感があるものの、モーターとの切り替えも至極スムーズで乗ってて違和感はない。 スポーティな流行りのコンパクトSUVと比べればゆったりとした乗り心地は健在だが、レンジローバーから乗り換えると、そのフィーリングはゆったりより軽快さが際立つ。モーターとエンジンを合わせると309PSにもなるのでかなり快活に走ることもできる。しかし、高い静粛性や均整の取れた上品な内外装など小さい体躯でもレンジローバーの世界観は健在。このクルマはやはりゆったり上品に走るのが似合っている。 街乗りではEVとして、それでいて遠出の際に電欠の心配をしなくてよく、スポーティな走りからジェントルな走りまで許容するPHEVは、それ相応の金額を出せるユーザーにとって現時点でのパワートレインの最適解なのだと感じさせる。 ギラギラとした“わかりやすい高級感”は皆無で人によっては物足りなさを感じるかもしれないが、サスティナビリティなんて小難しいこと言わず、この乗り味と世界観を味わうためにPHEVを積極的に選びたい、そう思わせてくれた。なお、末弟でも車両本体価格は1036万円(試乗車は74万6180円のオプション付)。これを高いと思うか安いと思うかはあなた次第である。 >>レンジローバーのPHEVモデルを写真で詳しくチェックする JLRでは今後、売れ筋のディフェンダーにもPHEVモデルを追加し、2025年には旗艦レンジローバーに初のBEVモデルが追加される。矢継ぎ早に電動化を推し進める印象だが、それと並行してまもなく史上最強のディフェンダー「OCTA(オクタ)」の登場が控えている。V8ツインターボ搭載のこの過激なモデルも、恐らく初期ロットは瞬く間に完売するだろう。 二枚舌なんて言いたくもなるが、高級ブランドの本質は富裕層の欲望を満たすこと。むしろOCTAやV8エンジンを搭載する「SVシリーズ」のようなクルマを売るために、電動化を積極的に推し進めている、なんて思ってしまった。 (終わり) ◎あわせて読みたい: |
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